前回の投稿で加重平均の係数が\(\exp(iS/\hbar),S=\int d^4x \mathscr{L}\)になることを記載しましたが、ここを掘り下げていきましょう。
正直いうと結構前提知識が必要になってくるので、悩ましいですが、、、
結論から先にいうと量子論の公理というか要請の1つ、
「ハミルトニアンが\(H\)である量子系の時間発展はユニタリ作用素\( \{\exp(iHt/\hbar )\}_{t\in\mathbb{R}}\)で記述される。つまり\(t=0\)で\(\varphi\)にある状態は時刻\(t\)には\(\exp(iHt/\hbar )\varphi\)の状態になる。」
というものが由来です。
これは要請なので、こうするとうまく実験結果とあう理論を作れるのでこうした、という気分のものでしかないです。
詳細に入る前に、場の状態の記述方法について、簡単に説明します。
場は時間と空間の関数ですので、この関数全体の集合\(\Psi\)を考えます。集合\(\Psi\)は遷移確率を考える上で内積が定義されていてほしく、かつ内積から誘導されるノルムが完備であってほしいので、ヒルベルト空間とします。
\(\Psi\)の元を\[|\psi\rangle\in \Psi \]と表し、\(\Psi\)上の内積を
\[
\left \langle \cdot |\cdot\right \rangle : \Psi\times \Psi \ni \psi_1 \times \psi_2
\rightarrow \left \langle \psi_1|\psi_2 \right \rangle\in \mathbb{C}
\]
で表すものとします。さらに\(\Psi\)上の完全正規直交基底を\( \{ e_n\}_{n\in\mathbb{N}}\)とすると、パーセバルの等式\(\left \langle \psi_1|\psi_2 \right \rangle = \sum_n \left \langle \psi_1|e_n \right \rangle\left \langle e_n|\psi_2 \right \rangle\)から、
\[
\sum_n \left| e_n \right\rangle \left \langle e_n \right| = 1
\]
がいえます。これを完全性の条件といいます。
※完全性の定義は、ヒルベルト空間\(\Psi\)のある正規直交系\(\{e_n\}_n\)が、\(|\psi \rangle \in \Psi \)に対して\(\langle e_n | \psi \rangle =0\)を満たすのは\(|\psi\rangle = 0\)の場合のみとなるとき、\(\{e_n\}_n\)は完全であるといいます。
さて、場の変数\(\psi\)とその共役な運動量\(\pi\)があり、場の状態はこの2つによって完全に同定されるものでした。
場の始状態を\(|\psi_i\rangle=|\psi(t_i,x)\rangle,\ |\pi_i\rangle=|\pi(t_i,x)\rangle \)、終状態を\(|\psi_f\rangle=|\psi(t_f,x)\rangle,\ |\pi_f\rangle| = \pi(t_f,x)\rangle\)とします。始状態から週状態にいたる確率\(\left \langle \psi_f(t_f,x)|\psi_i(t_i,x) \right \rangle\)は
\[
\left \langle \psi_f(t_f,x)\big |\psi_i(t_i,x) \right \rangle
=\langle \psi_f(x) |\exp\left(\frac{iH(t_f-t_i)}{\hbar}\right) \left|\psi_i(x)\right\rangle \tag{1}
\]
とかけます。冗長なので\(\exp\left(\frac{iH(t_f-t_i)}{\hbar}\right) \equiv U(t_f,t_i)\)とおきます。
さらに区間\([t_i,t_f]\)をN等分に分割します。つまり\(t_i =t_0 < t_1 < …<t_j< …<t_N=t_f\)とし、\(t_j=t_0+\frac{(t_f-t_i)}{N}\times j \equiv t_0+\Delta t \times j\)とします。すると(1)は\(U\)のユニタリ性より
\[
(1)=\langle \psi_f(x) |U(t_N,t_{N-1})…U(t_{j+1},t_j)…U(t_1,t_0) \left|\psi_i(x)\right\rangle \tag{2}
\]
とできます。
(2)の式で各Uの間に完全性条件\( \int d\psi_{t_j} |\psi_{t_j} \rangle \langle \psi_{t_j} | = 1\)をはさみこみます。すると
\[
(2) = \langle \psi_f(x) |
\prod_{j=1}^{N-1}\left( \int d\psi_{t_j}\langle \psi_{t_{j+1}}(x) | U(t_{j+1},t_{j}) |
\psi _{t_j}(x)\rangle \right)
|\psi_i(x)\rangle \tag{3}
\]
(3)のブラケットの中に注目します。\(\langle \psi_{t_{j+1}} |\)と\(U(t_{j+1},t_{j})\)の間に共役運動量の完全性条件\(\int d\pi_{t_j}|\pi_{t_j}\rangle \langle \pi_{t_j} | =1\)を挟みます。記号が煩雑なため、\(t_j\)を単純に\(j\)と表記します。すると
\[
\langle \psi_{j+1}(x) | U({j+1},{j}) |\psi_j(x)\rangle
=\int d\pi_j \langle \psi_{j+1}(x) | \pi_j\rangle \langle \pi_j |U(j+1,j) |\psi _{j}(x)\rangle \tag{4}
\]
さて、\(U\)の中の\(H\)ですが、一般に\(\psi,\pi\)の関数でした。物理系を記述するハミルトニアン\(H\)において、常に\(\pi\)を\(\psi\)の左側に寄せることが可能なので、
\[
\langle \pi_j | H(\psi ,\pi) | \psi_j \rangle= H(\psi,\pi) \langle \pi_j | \psi_j \rangle
\]
とでき、このとき右辺のHは演算子ではなく、通常の数になります。上記と、\(U=\exp iHt/\hbar\)であったので、\(H\)の無限和で表現できることを使うと
\[
\langle \pi_j |U(j+1,j) |\psi _{j}(x)\rangle = U(j+1,j) \langle \pi_j |\psi _{j}(x)\rangle
\]
とできます。\(\langle \pi_j |\psi _{j}\rangle\)は平面波を表すので、
\[
\langle \pi_j |\psi _{j}\rangle=\frac{1}{\sqrt{2\pi\hbar}} \exp\left(-\frac{i\pi_j\psi_j}{\hbar} \right)
\]
さらに
\[
\langle \pi_j |\psi _{j+1}\rangle=\frac{1}{\sqrt{2\pi\hbar}} \exp\left(-\frac{i\pi_j\psi_{j+1}}{\hbar} \right)
\]
であるので、(4)式は
\[
(4)右辺の積分の中身 =U(j+1,j)\langle \psi_{j+1}|\pi_j\rangle \langle \pi_j |\psi _{j}\rangle\\
=\frac{1}{2\pi\hbar}\exp\frac{-iH\Delta t}{\hbar } \exp\frac{i\pi_j\psi_{j+1}}{\hbar}\exp\frac{-i\pi_j\psi_j}{\hbar}\\
=\frac{1}{2\pi\hbar}\exp\frac{i}{\hbar} \left\{ \pi_j (\psi_{j+1}-\psi_j)-H \Delta t \right\} \\
\rightarrow \frac{1}{2\pi\hbar}\exp\frac{i}{\hbar} \left\{ \pi_j \partial_t\psi_j-H \right\}dt \ (\Delta t \rightarrow dt)
\]
したがって、以上をまとめると
\[
\left \langle \psi_f | \psi_i \right \rangle
=\prod_j \int d\pi_j d\psi_j \exp \frac{i}{\hbar}\left( \int d^4x \mathscr{L}(\psi,\partial_\mu\psi)\right)
\\
=\int D\pi D\psi \exp \frac{i}{\hbar}\left( \int d^4x \mathscr{L}(\psi,\partial_\mu\psi)\right)
\]
となり、加重平均の形が上記の形になることがわかります。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
質問などはコメント欄かお問い合わせにてよろしくおねがいいたします。
「サラリーマンが場の量子論を勝手に解説する無謀な記事4」への1件のフィードバック