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現代数学への招待 -解析学その1-

今回は現代数学の解析の分野について、紹介していきたいと思います。

上記図の注意点は前回の記事を参照ください。

解析学は主に「極限」を扱う分野となります。無限を数学的に厳密に扱います。

  • ルベーグ積分(測度論)
    この分野を一言で言うと、「集合の大きさを測る」分野です。もう少しいうと「集合たちの大きさを写像を用いて定義する」ことになります。例えば、線分や表面、立方体などを表す集合を、写像して、長さや表面積、体積などを定義するイメージです。
    この分野の黎明期にカントールは測度を考察し、厳密化していった結果、現代の集合論の概念に至った、という歴史的経緯もあり、集合論と相性がいいです。
    従来の積分というか、区分求積法をもう少し厳密にした積分をリーマン積分といいますが、ルベーグ積分はリーマン積分をさらに拡張したものとなっています。リーマン積分では連続な関数のみしか積分できませんが、ルベーグ積分では不連続な関数も積分できるようになります。
    またリーマン積分では極限や微積分の順序の入れ替えが周到な議論が必要なため、扱いづらい部分がありますが、ルベーグ積分はこれが簡単な条件で交換できるため、応用上もメリットがあります。

    少しだけ測度論のさわりを紹介します。簡単のため一次元を例にルベーグ測度を紹介してみます。
    \([0,1]\)を閉区間とします。この閉区間\([0,1]\)の中にはこれより短い区間、例えば\([0.2,0.3]\)や\([1/3,1/2]\)、\([1/2,1/\sqrt{2}]\)など無数にありますが、これらすべての大きさを測る必要があるので、閉区間全部を持ってきた集合を考えます。これを\(\mathcal{B}([0,1])\)と表します。これをボレル集合族といい、σ-加法族を構成します。\(\mathcal{B}([0,1])\)の任意の元を\([a,b],\ 0\leq a < b \leq 1\)で表すと、このルベーグ測度は\(b-a\)で定義されます。区間\([a,a]\)、つまり1点の長さは0とします。これらは直感的にも納得の定義かと思います。
    被らない区間の和集合、例えば\([0.2,0.3]\)と\([0.5,0.7]\)の和集合\([0.2,0.3]\cup[0.5,0.7]\)の長さは、直感的に\([0.2,0.3]\)の長さと\([0.5,0.7]\)の長さの和に等しくなってほしいので、
    \([0.2,0.3]\cup[0.5,0.7]\)の長さ = \([0.2,0.3]\)の長さ + \([0.5,0.7]\)の長さ
    が成り立つことを要請する必要があります。
    まとめると、ルベーグ測度\(\mu\)は、\(\mu:\mathcal{B}([0,1])\ni [a,b] \rightarrow \mu([a,b]) \in \mathbb{R} \)とする写像で以下をみたすものとして定義されます。
    1)\(\mu(\phi) = 0\)
    2)\(a<b<c<d\)として、\(\mu([a,b]\cup [c,d]) = \mu([a,b])+\mu([c,d])\)
    以上がルベーグ測度のさわりの紹介になります。測度はルベーグ測度以外に、数え上げ測度、ハール測度、スペクトル測度、確率測度など様々なものがあります。


  • 複素解析(関数論)
    教養の微分積分は実数での微分、積分が対象でしたが、これを複素数まで拡張したのがこの分野となります。複素平面で微積分を実行します。
    複素解析は数学に留まらず、物理学や電子工学などさまざまな分野で応用されている非常に重要な分野です。
    代表的な式のひとつにオイラーの公式\(e^{ix}=\cos x + i\sin x\)があります。これは指数関数と三角関数と虚数を結びつける衝撃的な式で、\(x=\pi\)とおくと\(e^{i\pi}+1=0\)という有名なオイラーの等式が得られます。
    応用上もオイラーの式を使うと三角関数の加法定理や倍角の公式とかも秒で証明できたりする、超便利な公式になります。
    複素解析で威力を発揮するもののひとつは、複素積分です。複素平面上での積分を実行する際、「留数定理」を使うことで、例えば、\(\int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{x^4+1}dx=\frac{\sqrt{2}\pi}{4}\)や\(\int_{0}^{\infty}\frac{\sin x}{x}dx = \frac{\pi}{2}\)など様々な関数の積分を実行することが可能になります。
    また関連分野にリーマン面という分野があり、これは幾何学にも繋がっていきます。

  • 測度論的確率論
    その名の通り、測度論を用いた厳密な確率論です。コルモゴロフが測度論を確率論に持ち込んだことにより、それまでの実用数学から現代数学に仲間入りさせ、現在に至ります。
    確率を標本空間のσ加法族上の測度とみなし、確率変数も可測関数という写像で定義されるという、一見なんのこっちゃわからなくなりますが、定義をじっくり噛み砕くと理解できるようになります。
    確率測度や確率変数を定義すると、確率変数の期待値や条件付期待値をルベーグ積分を用いて定義します。
    その後確率過程や確率解析などに進みます。これらはブラウン運動のような確率論的な運動を扱う分野で、日本の数学者伊藤清によって整備されたものとなります。ジグザグ運動はいたるところ微分不可であり、それまでは解析学的な扱いが困難でしたが、伊藤清の仕事により、比較的に扱いやすい形となりました。
    数理ファイナンスや金融工学の分野は、株価など確率論的な運動を解析するため、測度論的確率論は必須の知識になってます。また数理統計学を数学的に厳密にやるにもこの分野の知識が必要になります。

    測度論の箇所でルベーグ測度を紹介しましたが、確率論についてもさわりを紹介します。
    ルベーグ測度を構成する際に、3つの概念が出てきましたが、閉区間\( [0,1]\equiv \Omega \)、そのボレル集合族\(\mathcal{B}(\Omega)\)、と測度\(\mu\)をまとめて\( (\Omega,\mathcal{B}(\Omega),\mu) \)を測度空間と呼びます。この測度\(\mu\)が確率であるには\(\mu(\Omega)=1\)という条件をつけるだけになります。これは根元事象すべての確率は1に等しい、という条件を表したものになります。このとき測度空間\( (\Omega,\mathcal{B}(\Omega),\mu) \)を確率空間といい、\(\Omega\)を標本空間、\(\mathcal{B}(\Omega)\)の元を事象、\(\mu\)を確率測度と呼びます。確率測度は慣例で\(P\)と表すことが多いです。
    さらに確率変数\(X\)は、任意のボレル集合\(A\in \mathcal{B}(\mathbb{R})\)に対して、定義域を\(\mathrm{dom}X =\{\omega\in \Omega | X^{-1}(A)\in \mathcal{B}(\Omega)\}\)とする、 \(X:\Omega \ni \omega \rightarrow X(\omega)\in \mathbb{R} \)なる写像と定義します。
    これは期待値をルベーグ積分として定義するために、測度が定義できる集合にはすべて\(X\)を定義できるようにしているイメージとなります。
    終わりが見えなくなるので、このくらいにしておきます。

今回はこのくらいにしておきます。次回は関数解析学から紹介していきます。

最後まで読んでくださりありがとうございます。
質問などはコメント欄かお問い合わせにてよろしくおねがいいたします。

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