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書評 熱力学

  • 熱力学の基礎Ⅰ

かなりオススメの熱力学の書籍です。
熱力学の教科書は普通歴史にそって論理展開されるのが伝統ですが、本書籍は最初に完成された熱力学の全体像を要請/定義/定理という形の公理論的に展開しています。
まず熱平衡状態を要請し、そのそれぞれの平衡状態に1対1に対応する状態量をエントロピーと定義して、その数学的な性質を議論していってます。

普通の熱力学の書籍だと、まず身近な温度ありきで論理展開していますが、その場合相転移を扱う際熱容量の温度微分が発散してしまいめんどいことになりますが、本書籍は相転移が出てきても理論がぐらつかないように、相加変数(\(\approx\)示量変数)を基本変数に採用してあらゆる熱力学系に適用できるように体系化されています。通常このような論理展開してる本はガチ勢向けの難易度高めで超分厚い本なのですが、本書は公理論的に展開していても、説明が丁寧でじっくり読めば理解でき、今後の熱力学の教科書のスタンダートになる(と個人的に勝手に思ってる)良本です。

※相転移と聞くといかにも難しそうに聞こえますが、水が氷になることや、水蒸気が水になることも相転移の一例です。日常生活を見渡すと実は相転移だらけだったりします。

温度を6章になって、ようやくエネルギー表示におけるエントロピーの共役示強変数として定義されます。もちろんこれが日常的に使う温度と同じであることも説明しています。

またルジャンドル変換の説明が秀逸です。通常物理学だとルジャンドル変換は微分が定義できるもののみに限定して定義してしまいがちですが、相転移があるとその付近の熱力学関数の偏微分が定義できず、破綻してしまいます。そのためこれを凸関数のルジェンドル変換まで拡張する必要がありますが、この記載があるのは本書くらい(田崎さんの熱力学―現代的な視点から (新物理学シリーズ)にもあるらしい。私は読んでませんが。。)で、かなりレアな説明かと思います。

私はまだ1巻しか読んでませんが、最近(2021年8月)Ⅱ巻「熱力学の基礎 第2版 II: 安定性・相転移・化学熱力学・重力場や量子論」が刊行されたようです。いずれは2巻も通読したいと思います。

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