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サラリーマンが関数解析を勝手に解説する無謀な記事9

こんにちは、本日は関数解析の目玉の1つスペクトル定理について、ふんわり解説していきたいと思います。本稿もこちらで紹介した書籍を参考にしています。

有限次元のスペクトル分解は、こちらで示したように
\[
A=\sum_n a_n|e_n\rangle \langle e_n|\equiv \sum_n a_nE_n
\]
のような、固有値が離散的になるのですが、一般の線型作用素の場合無限次元になるので、無邪気に考えて、和は積分になることが予想できます。つまり
\[
A = \int \lambda dE(\lambda)
\]
的な雰囲気になります。\(\lambda\)や\(E(\lambda)\)を定義していないので、あくまで雰囲気/ノリ的な関係式ですが、上記に意味を追加していきます。

  • \(\int \lambda dE(\lambda)\)の\(\lambda\)

さて、\(u,v\in \mathcal{H},\lambda\in\mathbb{C}\)とし、\(I\)を\(\mathcal{H}\)上の恒等作用素、\(A\)を\(\mathcal{H}\)上の線型作用素とします。\(v\)は既知として、\(u\)を求めたいとします。\[
\lambda u -Au =v
\]このとき形式的/ノリ的には\(\lambda I -A\neq 0\)であれば、\[
u=\frac{1}{\lambda I -A} v\]とかけます。また、\((\lambda I -A)^{-1}\)は\[
\frac{1}{\lambda I -A} = \frac{1}{\lambda}\left(1+\frac{A}{\lambda}+\frac{A^2}{\lambda^2}+…\right)=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{A^n}{\lambda ^{n+1}}
\]のような無限級数で表すことができます。これが収束するには\[
\frac{\|A\|}{|\lambda|}<1
\]となると予想できます。このとき\[
R(\lambda,A)=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{A^n}{\lambda ^{n+1}},\ |\lambda|>\|A\|
\]とおくと、\(R(\lambda,A)\)は複素平面\(\ \lambda\)で正則になります。
※厳密にいうともう少しだけ正則となる範囲は広いです。\(r(A)=\limsup_{n\rightarrow \infty}\sqrt[n]{\|A^n\|}\)という量を考えると、これが上記無限級数の収束半径になります。\(\|A^n\|\leq \|A\|^n\)から、\(r(A)\leq \|A\| \)となることから、条件\(|\lambda|>\|A\|\)より少し収束する範囲が広い、ということになります。この\(r(A)\)をスペクトル半径といいます。

\(R(\lambda,A)\)が意味あるのは、\(\lambda I -A\neq 0\)でした。この条件はノリ的な式でして換言すれば\( \ \lambda I -A\)と\(R(\lambda,A)\)が1対1になっていて、\(R(\lambda,A)\)も線型作用素になっている場合です。これをもう少し数学的なことばで書き換えたのが以下になります。

DEF.13 レゾルベント
\( (\mathcal{H},\langle\cdot,\cdot\rangle) \)をヒルベルト空間とし、\(A\)を\(\mathcal{H}\)上の線型作用素とする。このとき
\[ R(\lambda,A)\equiv (\lambda I – A)^{-1} \ , \lambda\in \mathbb{C} \] なる\(R(\lambda,A)\)が存在して、1) \(\lambda I-A\)が単射、2) \(\mathrm{ran}(\lambda I -A ) \)が\(\mathcal{H}\)で稠密となるとき、\(R(\lambda,A)\)を\(A\)のレゾルベント(作用素)という。このときの\(\lambda\in\mathbb{C}\)の集合をレゾルベント集合といい、\(\rho(A)\)で表す。

レゾルベント集合を用いてスペクトルを定義できます。
ざっくりいうと、線型作用素\((\lambda I-A)^{-1}\)を定義できる\(\lambda\)の領域がレゾルベント集合だったのに対して、線型作用素として\( (\lambda I-A)^{-1}\)を定義できない\(\lambda\)の領域がスペクトルです。もう少しちゃんというと以下の定義になります。

DEF.14 スペクトル
\( (\mathcal{H},\langle\cdot,\cdot\rangle) \)をヒルベルト空間とし、\(A\)を\(\mathcal{H}\)上の線型作用素とする。このときスペクトル\(\sigma (A)\)をレゾルベント集合の補集合として定義する: \[ \sigma(A) \equiv \mathbb{C} \backslash \rho(A) \] またスペクトルは以下3つに分類される。
1)点スペクトル:\[ \sigma_p(A)\equiv \left\{ \lambda \in \mathbb{C}\mid \ker (\lambda I -A )\neq \{0\}\right\} \] 2)剰余スペクトル:\[ \sigma_r(A)\equiv \left\{ \lambda \in \mathbb{C}\mid \ker (\lambda I -A ) = \{0\}\ \& \ \overline{\mathrm{ran}(\lambda I-A)}\neq \mathcal{H} \right\} \] 3)連続スペクトル: \[ \sigma_c(A)\equiv \left\{ \lambda \in \mathbb{C}\mid \ker (\lambda I -A ) = \{0\}\ \& \ \overline{\mathrm{ran}(\lambda I-A)} = \mathcal{H} \neq \mathrm{ran}(\lambda I-A)\right\}\]

ここで写像\(\ker:B(\mathcal{H})\ni A \rightarrow \ker A \in\mathcal{H}\)は\(\ker A \equiv \{x\in \mathcal{H}\mid Ax=0 \}\)となる線型空間の部分集合を意味し、写像\(\mathrm{ran}:B(\mathcal{H})\ni A \rightarrow \mathrm{ran} A \in\mathcal{H}\)は\(\mathrm{ran} A \equiv \{Ax\mid \forall x \in\mathcal{H} \}\)となる作用素\(A\)の値域を意味し、\(\overline{\mathrm{ran}A} \)は\(\mathrm{ran}A\)の閉包の意味となります。

点スペクトルというのは、\( \{x\in\mathcal{H}\mid (\lambda I- A)x =0)\}\neq \{0\} \)、つまり\(0\)でない\(x \in \mathcal{H}\)が存在するもので、いわゆる線形代数の固有値と同じイメージになります。剰余スペクトルと連続スペクトルが無限次元特有のスペクトルになります。
スペクトルの定義から明らかですが、以下が成り立ちます。
\[
\sigma(A)\cup \rho(A) = \mathbb{C}\\
\sigma(A) = \sigma_p(A)\cup \sigma_r(A)\cup\sigma_c(A)
\]

  • \(dE(\lambda)\)

\(\int \lambda dE(\lambda)\)はもちろんルベーグ積分となるので、いろいろと準備が必要になります。まずルベーグ積分の測度となる部分からです。

DEF.15 スペクトル測度
\( (\Omega,\mathcal{F}) \)を可測空間とし、ヒルベルト空間\(\mathcal{H}\)上の射影作用素の全体を\(P(\mathcal{H})\)とする。写像\(E:\mathcal{F}\ni A\rightarrow E(A)\in P(\mathcal{H})\)が
1)\(E(\Omega)=I\)、\(I\)は恒等写像。
2)\(\mathcal{F}\)の互いに交わらない可算個の集合列\( \{A_n\}_{n=1}^{\infty} \)に対して、 \[ E\left( \bigcup_{n=1}^{\infty}A_n \right) = \sum_{n=1}^{\infty}E(A_n) \] を満たす時、\(E\)を\( (\Omega,\mathcal{F}) \)上のスペクトル測度という。

次に、\(\int \lambda dE(\lambda)\)が存在についてですが、これは一般的に以下の定理からその存在を示すことができます。

THM.3
\((\Omega,\mathcal{F}) \)をコンパクトハウスドルフ空間上の可測空間、\(C(\Omega)\)を\(\Omega\)上の連続関数全体、\(B(\mathcal{H}) \)を有界な線型作用素全体とする。写像\(\Phi : C(\Omega)\ni f\rightarrow \Phi(f)\in B(\mathcal{H})\)を、\(\Phi(1)=I\)となる*-準同型写像とする。このとき スペクトル測度\(E:\mathcal{F}\ni A \rightarrow E(A) \in B(\mathcal{H})\)が一意に存在して、 \[ \Phi(f) = \int_{\Omega} f(\omega)E(d\omega) \] と表現できる。

上記定理の証明の本質には大定理「リース・マルコフ・角谷の定理」があります。これは、要は
「線型汎関数\(\psi : C(\Omega)\ni f \rightarrow \psi (f)\in\mathbb{C}\)は、\(f\)に依存しないいい感じの測度\(\mu\)があって、
\[
\psi(f) = \int f(\omega)\mu(d\omega)
\]
というような積分の形に書くことができる」
ことを保証してくれる定理で、非常に重要な定理です。が、証明には相当周到な準備が必要なので本稿では省略します。詳細は日合さん本(ヒルベルト空間と線型作用素)の付録に詳しい証明がありますので、そちらを参照いただければと思います。

THM.3は「リース・マルコフ・角谷の定理」の測度がスペクトル測度の場合に拡張した定理みたいなものです。THM.3を使うことで、以下を示すことができます。

THM.4 スペクトル分解
\(A\)を有界な自己共役作用素とし、コンパクトな台をもつ\( (\mathbb{R},B_{\mathbb{R}}) \)上のスペクトル測度が一意に存在して、以下のように書ける: \[ A = \int \lambda E(d\lambda)\ . \] このとき、\(E\)とスペクトル\(\sigma(A)\)の台が一致する。
さらに、\(\forall f\in C(\sigma(A))\)に対して、 \[ f(A) = \int f(\lambda)E(d\lambda) \] が成立する。

一応補足ですが、台というのは\( \{x \in X \mid f(x) \neq 0\} \)となる部分集合のことを意味します。

上は有界な自己共役作用素に絞ってますが、非有界な自己共役作用素まで拡張することが可能です。

これが(かなり端折りまくってますが)関数解析でのスペクトル分解で、冒頭で示した式になります。今回の内容を使った例をいくつか挙げていきたいところですが、、それは次回にまわして、今回はここまでにします。
(ちょっと中身的に軽いノリで読める感じじゃなくなってきてますが、、、ジコマンの極みで現代数学の紹介をマイペースに進めますwww)

最後まで読んでいただきありがとうございます。
質問等はコメント欄かお問い合わせにてよろしくおねがいいたします。

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