本日はマニアックですが非可測集合について話したいと思います。本記事はこちらで紹介した伊藤さんのルベーグ積分入門を参考にしてます。
可測集合に関しては本シリーズの初めの方の記事に記載しました。まぁぶっちゃけ、ぱっと思いつくような集合はほぼ可測集合です。
ならば可測集合ではない集合、つまり非可測集合は存在するのか、存在するとしてはどんな集合なのかを話すのが今回の内容です。
・其の1
まず、任意の実数\(\ r,x \in \mathbb{R}\)に対して、ある有理数\(q\in \mathbb{Q}\)が存在して、\(r-x=q\)となるとき、\(r,x\)を同一視するような同値類を\(R_x\)とおきます。つまり
\[
R_x = \{r \mid r-x \in \mathbb{Q}\}
\]です。ここで任意の\(x,y\in \mathbb{R}\)に対して、
・\(x\in R_x,y\in R_y\)
・\(y\in R_x\)ならば\(x\in R_y\)
・\(x\in R_y\)ならば\(y\in R_x\)
が成り立つことがわかります。つまり任意の実数\(x,y\)は\(R_x,R_y\)に一致するか、交わらないかの二択になります。
したがって、\( \mathbb{R}\)は、同値類\(\{R_x\}_x\)によって分割できることになります:
\[
\mathbb{R} = R_{x_1}\cup R_{x_2} \cup……=\bigcup_x R_x \tag{1}
\]
・其の2
次に同値類\(R_{x_1},R_{x_2},….\)の代表元をそれぞれ\(x_1,x_2,….\)と選び、それを一列にならべた集合を
\[
A=(x_1,x_2,…..)
\]とおきます。
(これはしれっと選択公理を仮定してます。選択公理は最後に少し紹介します。)
\(q\in\mathbb{Q}\)として、ある代表元\(x_i\)と\(x_i-q\)は同じ同値類に含まれるので、集合\(A\)は\((0,1]\)に収まります。つまり\(A\subset (0,1]\)となります。
\(q\in (0,1] \cap \mathbb{Q}\)に対して、集合\(A_q\)を
\[
A_q = (A+q)\cap (0,1] + (A+q-1)\cap (0,1]
\]と定義します。このとき、
1) \(r,s \in (0,1]\cap\mathbb{Q}\)かつ、\(r\neq s\)ならば、\(A_r\cap A_s = \phi\)
2) \(\sum_{q\in(0,1]\cap\mathbb{Q} }A_q=(0,1] \)
が成り立ちます。
実際、1)に関して、\(A_r\cap A_s \neq \phi\)と仮定します。\( x\in A_r\cap A_s \)とすると、\[
x = x_1 +r’ = x_2 + s’ ,\ \left\{\begin{matrix} r’=r \mathrm{\ or} \ r’=r-1 \\ s’=s \mathrm{\ or} \ s’=s-1 \end{matrix}\right.
\]となるような\(x_1,x_2\)が存在することになります。\(x_1-x_2 = s’-r’ \in\mathbb{Q}\)となるので、\(x_1=x_2\)となり、\(r’=s’\)となります。ゆえに\(r=s \mathbb{\ or} |r-s|=1\)を意味しますが、これは最初の仮定、\(r,s \in (0,1]\cap\mathbb{Q}\)かつ\(r\neq s\)に矛盾にします。ゆえに\(A_r\cap A_s = \phi\)が成り立ちます。
次に2)についてですが、\(\sum_q A_q\subset (0,1]\)は定義から明らかなので、\(\sum_q A_q\supset (0,1]\)を示します。任意の実数\(\ x\in (0,1]\)を取ると、\(\mathbb{R}\)の直和分解(1)からいずれかの同値類に属するので、それを\(R_q \)とします。このとき、\(x=x_q + q\)、\( \ x,x_q \in (0,1]\)であるから\(|q|\leq 1\)が言えます。ここで
・\(q>0\)ならば\(q\in (0,1]\cap\mathbb{Q}\)となるので、\(x\in A_q\)、
・\(q\leq 0\)ならば\(1+q\in (0,1]\cap\mathbb{Q}\)となるので、\(x=x_q+(1+q)-1\in A_{1+q}\)
が成り立ちます。ゆえに\((0,1]\)の任意の実数\(x\)に対して、\(x\in A_q\)もしくは\(x\in A_{1+q}\)が成り立つので、\((0,1]\subset \sum_{q}A_q\)がいえます。よって、\(\sum_{q\in(0,1]\cap\mathbb{Q} }A_q=(0,1]\)が成り立ちます。
・其の3
最後に集合\(A\)がルベーグ非可測集合であることを示します。\(A\)がルベーグ可測集合と仮定すると、ルベーグ測度の性質より\(A+q\)と\(A+q-1\)も可測集合であることが知られています。よって、
\[
\mu(A_q)=\mu( (A+q)\cap (0,1]) +\mu((A+q-1)\cap(0,1] ) \\
= \mu\{ (A+q)\cap (0,1]\}+\mu\{(A+q)\cap(1,2] \}\\
=\mu\left\{ (A+q)\cap \big((0,1] +(1,2] \big) \right\} \\
=\mu\left\{ (A+q)\cap \big((0,2] \big) \right\}
\]
ここで\(A\subset (0,1],q\in (0,1]\cap\mathbb{Q}\)であるので、\( (A+q) \subset (0,2]\)であるので、
\[
\mu(A_q)=\mu\left\{ (A+q)\cap \big((0,2] \big) \right\} =\mu(A+q)=\mu(A)
\]
が成立します。ここで
・\(\mu(A)>0\)ならば、上記の結果と其の2(2)から、\(\mu((0,1] =\sum_{q\in(0,1]\cap\mathbb{Q} }\mu(A_q)=\infty \)となるため、測度の性質を満たさず、
・\(\mu(A)=0\)ならば、上記の結果と其の2(2)から、\(\mu((0,1] =\sum_{q\in(0,1]\cap\mathbb{Q} }\mu(A_q)=0 \)となるため、測度の性質を満たさないことになります。
したがって\(A\)は可測集合ではないことが言えます。
最後に
この集合\(A\)が冒頭で紹介した、(ルベーグ)非可測集合となります。正直イメージが相当つきにくいです。
上記一連の流れで、キモとなっているのは\(A\)を構成するときに選択公理を仮定したことです。上記一連の流れを一言でいうと「選択公理を仮定すると非可測集合が存在する」ことになります。
この選択公理とは公理論的集合論のなかでも、最も自明でない公理と言われており、これは、
「無限個の集合列から元を取得して、集合をつくることができる」というのを認める公理です。
一般的な感覚からすると全く問題ないような気がしますが、、、これは次のような事実があるためです。
選択公理が自明でないと言われている理由のひとつに、バナッハ・タルスキーのパラドックスがあり、球を有限個に分割して、適当に組み替えたりすると元の球と同じ球を2つ作ることができる、というものです。直感とはかけ離れた結果が得られてしまうため、公理の中でも議論の余地があるものとなってます。
とはいえ、この選択公理を仮定することで、様々な定理が導かれることも事実です。ツォルンの補題やハーン・バナッハの拡張定理等が例です。今ではほとんどの場合選択公理を仮定していることが多いです。
本日はここまでにします。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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「サラリーマンが測度論を勝手に解説する無謀な記事7」への1件のフィードバック