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サラリーマンが測度論を勝手に解説する無謀な記事5

今回はラドン・ニコディムの定理やルベーグ・スティルチェス測度についてふれていきます。

リーマン積分で置換積分を習ったことがあるかと思います。例えば
\[
\int_0^3 \sqrt{9-x^2}dx
\]
の定積分を求める際、\(x=3\sin t\)とおくと\(dx = 3\cos t dt\)となるので、
\[
\int_0^3 \sqrt{9-x^2}dx = \int_0^{\frac{\pi}{2}} \sqrt{9-9\sin^2 t}\ 3\cos t dt \\
=\int_0^{\frac{\pi}{2}}9\cos^2tdt=\int_0^{\frac{\pi}{2}} \frac{9(1+\cos2t)}{2}dt \\
= \frac{9}{4}\pi
\]
といった形に計算できるもので、公式にすれば、
\[
\int_a^b f(x)dx = \int_{\alpha}^{\beta} f(g(t))\frac{dg(t)}{dt}dt , \ a=g(\alpha),\ b =g(\beta)
\]
というものでした。これのルベーグ積分版を考える、というのが本稿になります。

ルベーグ積分における、この\(dg/dt\)にあたるものが何者かから定義する必要があります。まず測度の絶対連続という概念を定義します。

DEF.8 (測度の)絶対連続
可測空間\((X,\mathcal{F})\)上の測度を\(\mu,\nu\)とする。\(\mu\)に関する任意の零集合\(A\in\mathcal{F}\)に対して、\(\nu(A)=0\)が成り立つとき、\(\nu\)は\(\mu\)に関して絶対連続であるという。

同一の可測空間に\( \mu,\nu\)といった複数の測度が出てきてますが、これは自然なことです。測度はσ加法性をもつ、σ加法族から\([0,\infty)\)への写像なので、これを満たせばなんでもよいです。可測集合\([a,b]\)の(ルベーグ)測度は\(b-a\)となりますが、例えば\(2\times (b-a)\)とかでも問題ないわけです。

絶対連続の概念を使って、ラドン・ニコディムの定理を記述できます。

THM.1 ラドン・ニコディム
可測空間\((X,\mathcal{F})\)上の測度を\(\mu,\nu\)とする。\(\nu\)が\(\mu\)に関して絶対連続であるとき、任意の可測集合\(A\in\mathcal{F}\)に対して、 \[ \nu(A)=\int_A g(x)d\mu(x) \] となる\(X\)上の可測関数\(g\)が存在する。\(g\)をラドン・ニコディム微分と呼び \[ g(x)\equiv \frac{d\nu}{d\mu} \] と表記する。これはほとんどいたるところ一意となる。

証明は長いので省略しますが、証明の中で重要な定理を使うので、その紹介をしておきます。

THM.2 ルベーグの優収束定理
\((X,\mathcal{F},\mu)\)を測度空間とする。\(X\)上の可測関数列を\(f_n,n\in\mathbb{N}\)とする。ある可測関数\(g(x)\)が存在して、\(\left|f_n(x)\right| \leq g(x)\)が成立し、かつ \[ f(x)= \lim_{n\rightarrow \infty}f_n(x)\ a. e. \] となるならば、極限\(f\)は可測関数となり、 \[ \int_A f(x) d\mu = \lim_{n\rightarrow \infty}\int_A f_n(x)d\mu \] が成立する。

この定理は、つまり積分と極限の順序を交換できることを主張しており、実用面においてルベーグ積分がリーマン積分よりも扱いやすくしている定理のひとつになります。

さて、ラドン・ニコディムの定理によって\(d\nu/d\mu\)の存在が保証されましたので、具体的に\(\nu\)を構成してみます。可測集合\([a,b]\)の測度\(\nu\)を\(\nu([a,b]) = g(b)-g(a)\)と定義とし、\(g(x)\)は単調非減少関数とします。
※つまり\(d\nu/d\mu = g(x)\)とおいたことに相当します。
このとき\(\nu\)もルベーグ測度になるため、
\[
\int_a^b f(x) d\nu = \int_a^b f(x) dg(x)
\]
もルベーグ積分となります。これをルベーグ・スティルチェス積分とよびます。
なお\(g(x) = x\)の場合、通常のルベーグ積分になります。

ラドン・ニコディム微分やルベーグ・スティルチェス積分は、測度論的確率論における条件付き期待値や確率分布に応用されていますので、その意味でも重要です。

本日は短いですが以上になります。

最後まで読んでいただきありがとうございます。
質問等はコメント欄かお問い合わせにてよろしくおねがいいたします。

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