こんにちは、ちょっとマニアックになってきましたが、前回自己共役作用素の話をしましたが、スペクトル分解に入る前に、自己共役作用素の例を少しあげていきます。
1)掛け算作用素
まず簡単な例からあげます。ヒルベルト空間をH=L2(X,F,μ)にとり、内積を
⟨f,g⟩=∫f(x)¯g(x)μ(dx)
ととります。線型作用素Mψ:L2(X)∋f→Mψ(f)∈L2(X)を
Mψ(f)≡ψ(x)f(x), ∫X|Mψ|2μ(dx)<∞
と定義します。
要は、Mψ(f)は、f(x)にψ(x)を掛ける作用素のことで、シュレディンガー作用素(後述)のポテンシャルV(x)に相当するものです。
明らかにこれは任意のf,g∈L2(X)に対して⟨f,Mψg⟩=⟨Mψf,g⟩を満たし、さらにdomMψ=domM∗ψを満たすので、これは自己共役作用素になります。
2)微分作用素
L2(X)上の線型作用素p:L2(X)∋f→pf∈L2(X)を
pf≡−i∂f∂x
について考えます。pの定義域dompは微分可能な関数に限られるので、L2(X)全ての元に適用できるわけではなく、少なくともソボレフ空間Wn2(X),n≥1になります。ソボレフ空間の性質として、Wk2(X)⊂Wk−12(X)⊂…⊂W12(X)が成り立つので、今回W12(X)ととります。このとき部分積分を使うと、任意のf,g∈W12(X)に対して、
⟨pf,g⟩=∫−i∂f∂x¯g(x)μ(dx)=−if(x)¯g(x) |X+i∫Xf(x)∂¯g(x)∂xμ(dx)=−if(x)¯g(x) |X+⟨f,pg⟩
となることから、X=[0,1]とし、f,gは周期境界条件f(1)=f(0),g(1)=g(0)を満たすとします。このとき
⟨pf,g⟩=⟨f,pg⟩
を満たすので対称作用素であり、domp=domp∗を満たすので、自己共役となります。以上まとめると、
pf=−i∂f∂x, domp={f∈W12([0,1])⊂L2([0.1])∣f(1)=f(0)}
なる線型作用素pは自己共役になります。
ここですこし、pをいじってみます、例えば、
p1f=−i∂f∂x, domp1={f∈W12([0,1])⊂L2([0.1])}
のように周期境界条件を削除してみます。すると、⟨f,pg⟩≠⟨pf,g⟩となり、エルミート作用素ですらなくなります。
次に、以下のようにいじってみます。
p2f=−i∂f∂x, domp2={f∈W12([0,1])⊂L2([0.1])∣f(1)=f(0)=0}
つまり、境界上のxでf(x)=0を要求するようなものです。このとき⟨f,pg⟩=⟨pf,g⟩と、dompはL2([0,1])において稠密であることから、対称作用素になります。しかしpとその共役作用素p∗の定義域がdomp≠domp∗であることから自己共役作用素にはなりません。
以上より、同じ微分作用素であっても境界条件に依存して、対称作用素になったり、自己共役作用素になったりして、かなりセンシティブなものになります。
このような感じで自己共役性を証明することはかなり難しい問題です。シュレディンガー作用素Hは
H=(−ℏ22m∑i∂2∂x2i+V(x))
のような形の作用素ですが、これは量子力学が建設されてから、いろいろなポテンシャルV(x)でのエネルギー固有値が解かれていきました。しかしシュレディンガー作用素が自己共役であることは、1951年に日本の数学者加藤敏夫氏によって、ようやく証明されました。量子力学が創設されて約四半世紀後のことです。それくらい難しい問題です。
すみません、スペクトル分解の話も少ししようとしましたが、全く辿りつかずにそれなりの分量になったので、本稿はここまでにします。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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