今回は、結構マニアックですが、作用素の半群について勝手に解説していきます。
本記事はこちらで紹介した関数解析(岩波基礎数学選書)を参考にしています。
1)背景
\(A\)を定数、\(u(t)\)を\(u(0)=u_0\)とする関数とします。このとき、1階の常微分方程式
\[
\frac{du}{dt}=Au(t)
\]の解は、\[
u(t) = e^{tA}u_0
\]となります。
ここまでは特に問題ないかと思います。
次に\(A\)を行列に拡張してみます。つまり\(A = (a_{ij}) ,1\leq i,j \leq N\)としてみます。このとき\(e^{tA}\)を\[
e^{tA}\equiv \sum_{n=0}^{\infty}\frac{t^n}{n!}A^n
\]と定義すると、\(u(t)\)は、\(u:[0,\infty) \ni t \rightarrow u(t)\in \mathbb{R}^N\)となるような線型空間\( \ \mathbb{R}^N\)に値をとるベクトル値関数と見ることができます。ゆえに上の\(A\)が定数の場合と形式的に同じ形の解となります。
では、\(A\)をバナッハ空間上の線型作用素に拡張した場合どうなるかを考えるのが、今回の記事になります。
2)半群
上の式で、\(T(t) = e^{tA}\)とおきます。すると
1) \(T(0)=I\)
2) \(T(t+s)=T(t)T(s),t\geq 0 ,s\geq 0 \)
がわかります。このような二項演算の性質をもつ一般に半群と呼びます。\(A\)が作用素の場合について、以下に定義します。
DEF.18 (作用素の)半群
\( (X,\|\cdot\|) \)をバナッハ空間とし、\( \{T(t)\}_{t\in [0,\infty)} \)を\(X\)上の線型作用素の族とする。このとき
1) \( \{T(t)\}_t \subset B(X) \)、\(B(X)\)は\(X\)上の線型作用素全体の集合
2) \( T(0) = I \)、\(I\)は恒等作用素
3) \( T(s+t) =T(s)T(t)\)、\(s,t \in [0,\infty)\)
をみたす\(T(t)\)を半群、もしくは1パラメータの半群という。
代表的な作用素の半群の種類を定義として以下にまとめておきます。
DEF.19 半群の種類
\( \{T(t)\}_{t\in [0,\infty)} \)をバナッハ空間\( X \)上の半群とする。このとき
1) \( \|T(t)\| \leq 1 \)をみたすとき、\(T(t)\)を縮小半群という。
2) \( \|T(t)\| \leq M \)をみたす定数\(M\)が存在するとき、\(T(t)\)を有界半群という。
3) \( \|T(t)\| \leq Me^{\beta t} \)をみたす定数\(M,\beta\)が存在するとき、\(T(t)\)を準有界半群という。
4) \(\forall a \in X\)に対して、写像\(T(\cdot )a:[0,\infty)\ni t \rightarrow T(t)a \in X \)が連続となるとき、\(C_0\)級の半群という。このとき\(T(t) \)がパラメータ\(t\in [0,\infty)\)において強連続である、という。
\(C_0\)級の半群は準有界となることが知られています。
ちなみに\(\ t\in [0,\infty)\)の\(T(t)\)は半群になりますが、\(t\in\mathbb{R}\)の場合は群になります。
3)生成作用素
さて、逆に\(T(t)\)から\(A\)を求めるには、直感的には\(t=0\)の微分係数を求めればよいと考えられます。というのも
\[
\left.\frac{d T(t)}{dt}\right|_{t=0}=\left.\frac{d e^{tA}}{dt}\right|_{t=0}=Ae^{tA}|_{t=0}=A
\]
となりそうなためです。これを数学的に正当化するために生成作用素を定義します。
DEF.20 生成作用素
\( \{T(t)\}_{t\in [0,\infty)} \)をバナッハ空間\( X \)上の半群とする。このとき\(A\)が\(T(t)\)の生成作用素であるとは、任意の\(u\in X\)に対して、\[
\lim_{h\rightarrow +0}\frac{T(h)-I}{h}u
\]が\(A\)の定義域\(D(A)\)に存在して、\[
Au=\lim_{h\rightarrow +0}\frac{T(h)-I}{h}u
\]をみたすときをいう。ここで\(\lim_{h\rightarrow +0}\)とは右極限を表すものとする。
証明は割愛しますが、上記の定義より、以下の性質を導くことができます:
1)任意の\(a\in D(A)\)に対して、\(T(t)a\in D(A)\)となり、\(T(t)Aa = AT(t)a,\ t\geq 0\)。
2)\(T(t)a\)はパラメータ\(\ t\)に関して微分可能であり、\( d/dt (T(t)a) =T(t)Aa=AT(t)a,t>0\)。
3)\(A\)は閉作用素である。
4)生成作用素\(A\)は一意である。
DEF.20と上記の性質によって、以下の定理が成り立つことを示すことができます。
THM.6
\(A\in B(X)\)とする。すなわちバナッハ空間\(X\)の線型作用素とする。\[
T(t)=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{t^n}{n!}A^n
\]とおくと、\(T(t)\)を\(X\)上の半群となり、\(A\)はその生成作用素となる。
したがって、\(T(t)=\exp \{tA\}\)とでき、\( \| \exp\{tA\}\| \leq \exp\{ t \|A\|\} ,t\geq 0\)が成り立つ。
この定理によって、指数関数の係数が線型作用素の場合でも、定数/行列のノリで微積分することが正当化される感じになります。
さて、いままでの議論は\(T(t)\)ありきで議論してきましたが、逆にすべての線型作用素\(A\)に対して、半群を構成できるかが疑問が湧きます。もちろん直感的にTHM.6は\(T(t)\)を無限級数で表しているので、全ての\(A\)で半群を構成できるわけではなく、何かしらの条件が課されるはずと考えられます。この問いの基本的な解として、吉田・ヒレの定理が挙げられます。
THM.7 吉田・ヒレの定理
\(A\in B(X)\)とする。\(A\)がバナッハ空間\(X\)上の半群の生成作用素となる必要十分条件は以下の2つである:
1) \(A\)は、\(D(A)\)が\(X\)で稠密な閉作用素。
2) \(\forall \lambda >0\)が、\(A\)のレゾルベント集合\(\rho (A)\)に属し、
\(\lambda\|(\lambda -A)^{-1} \|\leq 1 \)をみたす。
※レゾルベント集合についてはこちらの記事も参照していただければと思います。
本定理はかなり重要な定理です。証明については、例えば関数解析(岩波基礎数学選書)を参照いただければと思います。
さらに\(T(t)\)のパラメータ\(t\)を複素数に拡張させることもできます。この\(T(t),t\in\mathbb{C}\)を解析的半群と呼ばれているのですが、これは別の機会にしたいと思います。
以上今回は作用素の指数関数の扱いを紹介しました。普通作用素の計算をする際、ここまで踏み込むことはあまりないのですが、その数学的基盤はこのような感じになります。そしてその数学的基盤の構築に日本の数学者が貢献していることも誇るべきことかと思います。
本日はここまでにします。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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