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現代物理学への招待5

今回は原子核物理学、原子分子物理学、物性物理学を紹介していきます。

上図の注意点についてはこちらの投稿をご確認ください。

  • 原子核物理学
     その名の通り、原子核を記述する物理学です。原子核の大きさ(\(10^{-14}\sim10^{-15}\)m)にくらいになると、「強い力」が支配的になりますので、「強い力」を記述する量子色力学を用いて議論されます。原子核を構成する陽子や中性子など(これらを総称してハドロンと呼びます)は「クォーク」と呼ばれる素粒子と強い力を運ぶ「グルーオン」と呼ばれる素粒子が登場人物となります。

     「強い力」の存在は次のように考えるとわかるかと思います。原子核はいくつもの陽子が狭い領域に存在するので、クーロン則により相当大きな斥力が働くことになりますが、原子核がバラバラにならないためには、それに打ち勝つくらいの引力が必要で、これが強い力です。
    (強い力は固有名詞感が皆無ですが、慣例上そう呼ばれているので、仕方ありません。英語でもStrong Interactionでこれまた固有名詞感がないです。)

     クォークやグルーオンは色荷(しきか、またはカラーチャージ)という自由度というか変数で表されます。これは群論のSU(3)を光の三原色のアナロジーで考えられたものです。擬似的に、カラーチャージは三原色の頭文字をとって「\(\mathrm{R}\)」「\(\mathrm{B}\)」「\(\mathrm{G}\)」で表され、例えば陽子や中性子は「\(\mathrm{R}\)」「\(\mathrm{B}\)」「\(\mathrm{G}\)」をもつクォークが1つずつ合わさって「白」になってできたものです。\(\pi\)中間子と呼ばれるハドロンとは異なる粒子が存在するのですが、これも「\(\mathrm{R}\)」と「\(\mathrm{\bar{R}}\)」(「\(\mathrm{R}\)」の補色)が合わさって「白」になります。
    ハドロンや中間子など人類が直接色荷を観測できないので、「カラーの閉じ込め」もしくは「クォークの閉じ込め」などと呼ばれています。

     原子核物理の範疇として、この超高圧/低温な状態になるとカラーチャージが超伝導を起こす、カラー超伝導や、超高圧/超高温になると起こるとされるクォーク・グルーオン・プラズマ(QGP)が盛んに研究されています。QGPは超高圧超高温な状態ではクォークとグルーオンが単独で飛び回りプラズマ状態になる状態で、原始宇宙で存在していた可能性があるとして、加速器で瞬間的に再現させることができると考えられています。一方カラー超伝導は、クォークがクーパー対をつくり、それがボーズ凝縮することを言いますが、超高圧/低温な状態を地上で再現させることができないので、中性子星の性質を探ったり、重イオンを衝突させるなどして研究を進めているようです。

  • 原子分子物理学
     原子や分子を量子論を使って記述する分野となります。化学とも近い分野です。
    量子力学の理論が構築された後、最初に検証の対象となったのが原子や分子です。共有結合や金属結合などの化学結合を量子力学の結果と実験結果を突合して、量子力学の正しさを検証していきました。原子分子のシュレーディンガー方程式は解析的に解くことは不可なので、様々な近似法も発展していきました。

     現代では原子や分子に加速器で得られる放射光をあて、電子がどの方向にどれくらいの強さで反射するかを測定して、原子分子の電子状態を調べることが行われています。
    また大きな原子の最外殻電子の相対論効果や場の量子論の検証、電子とその反物質である陽電子からなるようなエキゾチック原子の研究も行われています。

  • 物性物理学
     物質の性質を物理学を用いて研究する分野です。凝縮系物理学ともいいます。物質は\(10^{23}\)個の原子からできており、原子1つ1つの動きを解析することは実質不可であるため、量子多体系として扱います。
    研究対象もかなり広いです。パッと思いつく限りでも、超伝導、半導体、強相関電子系、光物性、表面/界面物性などなどあります。いくつか紹介していきます。
     超伝導の分野ですが、水銀を液体ヘリウムを使って絶対零度近くまで冷やすと、電気抵抗がほぼゼロになることが発見され、その機構はBCS理論で理解されています。その後、液体窒素の温度程度でも電気抵抗がほぼゼロになることが発見されましたが、そのメカニズムは現在も未解明なままとなっています。クーパー対といわれる電子対ができ、それがボーズ凝縮することは間違いなさそうですが、クーパー対のでき方がはっきりと解明できていないのです。これが解明できれば、室温超伝導への応用が開かれ、エネルギー消費問題のブレイクスルーになりえます。
    室温超伝導が実現できれば、エネルギーをほとんど散逸せず、遠隔地へ送ることができるようになります。また近年データセンターなどIT設備によるエネルギー消費が急増しており、この対策の一つにもなり得ます。
     次に半導体ですが、その性質を理解するには量子力学と統計力学の知識が必要になります。詳細は割愛しますが、バンド構造と呼ばれる理論で、この理論に基づき、金属、半導体、絶縁体が区別され、半導体素子の設計に応用されています。ITがここまで発展したのも基礎理論のひとつに物性物理があるのです。
     最後にトポロジカル絶縁体について、少し紹介します。 2000年代にトポロジカル絶縁体というものが発見されました。これは物質の内部は絶縁体だが、その表面は伝導状態が現れるという、いままでにない新しい物質です。さらにその派生としてトポロジカル超伝導体とよばれる、表面に超伝導体になる物質も発見されています。2018年にはトポロジカル超伝導体上に素粒子論で予言されていた、マヨラナ粒子の存在が確認されており、物理学だけでなく、量子情報の分野へも新たな道が開拓されつつあります。量子情報へのインパクトについて、そのうち照会します。
     

今回はここまでにします。もしよろしければ以下の記事もご覧ください。

最後まで読んでくださりありがとうございます。
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