Site Overlay

現代数学への招待 -幾何学その1-

今日は幾何学について、紹介していきたいと思います。

  • 多様体論
    幾何学に入ってまず学ぶのが多様体です。
    多様体の定義は書きませんが、ざっくりいえば、多様体は局所的に\(\mathbb{R}^n\)と見なせる滑らかな曲面のことで、これを数学的に厳密に記述していく分野です。
    まず多様体を定義し、次に多様体上の接空間を定義します。接空間は、多様体上の曲線に沿って定義されます。つまり曲線状の点\(p\)において曲線に沿った方向微分を定義し、その方向微分全体が線型空間をなすものが接空間となります。接空間は方向微分全体でしたから、ライプニッツ則(いわゆる積の微分:\(v(fg)=v(f)g+fv(g)\)、\(f,g\)は多様体上の曲線を表す関数、\(v\)を方向微分)も満たします。
    ※厳密には線型空間でライプニッツ則を満たすものを接空間と定義する、という感じです。

    物理学や工学で頻出のテンソルの厳密な定義もここで与えられます。多様体論でのテンソル\(\ T\)は、\(V,V^*\)をそれぞれ線型空間とその双対空間として、\(T:V\times ….\times V\times V^*\times …. \times V^* \rightarrow \mathbb{R} \)というような、多重線形写像として定義されます。線型空間\(V\)を接空間、双対空間を接空間の双対空間に選ぶと、接空間は多様体上の点\(p\)での空間でしたから、多様体各点でテンソルが定義できます。こうして各点で定義されるテンソル全体をテンソル場が自然と定義されることになります。

    そして、微分形式を定義し、多様体上の微分積分を定義します。全微分というものがあったかと思いますが、これを一般化/抽象化したのが外微分です。微分形式を定義することで、ベクトル解析をさらに完結に表現することが可能になります。

    また、リー群やリー環についても出てきたりします。これは代数学で定義される、群ないし環が多様体でもある集合、という合わせ技です。こういうところでも数学は有機的に様々な分野とつながっていることがわかるいい例です。

  • 微分幾何学
    微分方程式を幾何学的に捉える分野です。多様体の知識が前提となります。
    微分幾何学の一分野にリーマン幾何があります。これはざっくりいうと多様体上に計量テンソルと接続を定義されたものが舞台になる感じです。計量テンソルは、いわば接空間上のベクトルの内積です。多様体上の点\(p\)における接空間を\(T_pM\)、\(\partial_i = \partial/\partial x_i\)とすれば、\(p\)での計量テンソルは\(g:T_pM\times T_pM \ni \partial_i \times \partial_j \rightarrow g(\partial_i,\partial_j)\in \mathbb{R}\)で定義されます。いきなり偏微分がでてきましたが、偏微分作用素\(\{\partial/\partial x_i\}_i\)は接空間の基底になります。この基底の定義域は多様体上の曲線全体になります。
    続いて接続です。多様体は局所的に\(\mathbb{R}^n\)とみなせるものと言いましたが、ある点\(p\)からちょっとだけ離れた点であれば、まだ\(\mathbb{R}^n\)と見なせるはずですが、何かしたらの補正が必要になります。この補正が接続になるイメージです。平行移動や共変微分、クリストッフェル記号などいろいろな概念が出てきますが、基本的には接続を厳密に定義するためのものになります。
    リーマン幾何の応用例のひとつは一般相対性理論です。一般相対性理論では時間と空間を合わせて時空を多様体として扱います。一般相対論では計量が負の値も取りうるため、厳密な計量ではないので、擬リーマン幾何と呼ばれてたりします。また相対論では基本的に成分のみで表示することが多いのですが、成分は基底を決めて初めて決まるものであり、現代微分幾何の「原則基底によらない記述にする」方針と相容れない状態になってます。なので、数学者からすると一般相対論の論理展開は気に入らないようで、成分だけで論理展開するのは悪習と切り捨てる人もいるようです。とはいえ、テンソルの成分計算をゴリゴリやる人にとっては、スハウテンの記法という、基底を添字の違いで暗示させる記法がとても便利とも言ってる人もいるようです。

    微分幾何の応用に情報幾何という分野もありますが、こちらについては別途紹介します。

    リーマン幾何以外には、シンプレクティック幾何学や複素多様体などがあります。シンプレクティック幾何は解析力学発祥の幾何です。ハミルトンの正準方程式を幾何学的に導出できたりするのですが、ファイバーバンドルの概念が必要なので詳細は割愛します。
    複素多様体は超ひも理論で使われるものです。超ひも理論によるとこの世界は一般相対論が扱うよりはるかに空間次元が多く、9次元と言われています。残りの6次元は小さな領域にコンパクトに畳み込まれていて、この畳み込まれ方がカラビ・ヤウ多様体と呼ばれるもので複素多様体の1種になります。複素多様体は代数、幾何、解析の全てが渾然一体となるところだったりして、数学は有機的に繋がっている例のひとつといえるかと思います。


  • 位相幾何学
    位相幾何学は連続的な変形の中で不変量を調べる分野です。よく例に出されるのは、コヒーカップとドーナッツは位相幾何学的には同じというものです。これは穴の数が変化しないことを言っています。この穴の数が不変量となります。ドーナッツとおせんべいは穴の数が異なるため位相幾何学的には異なる図形になる、という感じです。
    さて、位相幾何にはホモロジー群と分野があります。ホモロジーを一言でいうと、図形から穴を抽出する手法です。直感的に穴を抽出するには境界がなければよさそうですが、実際にはもう一つ条件が必要であり、もう一つ高次元の境界になっていない必要があります。この内容をK鎖群や境界作用素、ホモロジー群という、代数学的に定式化された概念を使って図形を調べる分野です。
    もうひとつ重要な概念にホモトピーというのがあり、これは2つの図形が連続的な変化で同じになるか、というものです。少し書くと、写像\(f(x),g(x)\)があって、\(f\)から\(g\)に連続的に変化できることを写像\(F:X\times I \ni x \times t \rightarrow F(x,t) \)、\(F(x,0) = f(x),F(x,1)=g(x) \)をホモトピーと言います。先のドーナツとコーヒーカップの例はホモトピー同値の例となります。

    最近では位相幾何学をデータ解析に応用する、「トポロジカルデータ解析(TDA)」という分野も発展しつつあります。TDAは位相幾何学と同じくデータの大域的な特徴を掴む手法で、機械学習とは学習原理が根本から異なっています。どちらにもメリデメはあるので、これらは相補的に発展していくのかと思われます。ちょうど位相幾何学と微分幾何学のような感じで、ですかね。

今回は以上になります。
次回も引き続き幾何学について紹介していきます。

最後まで読んでくださりありがとうございます。
質問や間違いなどについては、コメント欄かお問い合わせにてよろしくおねがいします。

現代数学への招待 -幾何学その1-」への2件のフィードバック

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です