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現代数学への招待 -幾何学その2-

今日は引き続き幾何学について紹介していきます。

  • 代数的位相幾何学
    代数トポロジーとかとも言います。その名の通り代数学をバンバン使った幾何学です。位相幾何学のところでホモロジー代数について少し紹介しましたが、ここではそのホモロジー代数の双対となる概念を導入します。ホロモジーにおいて、図形から穴を抽出するために鎖群と境界作用素の概念を用いました。鎖群を\(C_n\)とし境界作用素を\(\partial_n\)とすると、\(C_n\overset{\partial_n}{\rightarrow}C_{n-1}\)という関係が成り立ちます。
    ここで鎖群を定義域とする関数を考えます。つまり\(f:C_n \ni x\rightarrow f(x)\in \mathbb{R}\)なる写像を考えるイメージです。この\(f\)を全て集めてきた集合を\(C_n^*\)とすると、これは\(C_n\)との内積\(\left \langle\cdot,\cdot \right \rangle : C_n\times C_n^* \ni x \times f \rightarrow \left \langle x,f \right \rangle \equiv f(x) \in \mathbb{R}\)を考えることができます。つまり\(C_n^*\)は\(C_n\)の双対とみなせることになります。さらに\(C_n^*\)と\(C_{n-1}^*\)をつなぐ、いわゆる境界作用素の双対版を考えることもできます。これはざっくりいうと「境界の関数値から1次元高い関数値をつくる」ものに対応します。\(\delta_n:C_n \times C_n^*\ni x \times f \rightarrow \left \langle \partial_nx,f \right \rangle = f(\partial_n x)\equiv \delta_n f \in C_{n+1}^*\)なる\(\delta_n\)を定義すると、これは\(C_n^*\overset{\delta_n}{\rightarrow}C_{n+1}\)となる写像で、双対境界作用素と言われています。

    さらに\(m\)次元多様体上であれば、\(C_n\)は特異ホモロジーと呼ばれます。その双対\(C_n^*\)はn次の微分形式全体の集合になり、その双対境界作用素\(\delta\)は外微分\(d\)になります。さらに内積は具体的に、\(C_n\times \Omega _n\ni c\times \omega \rightarrow \left \langle c,\omega \right \rangle \equiv \int_c\omega\)という積分の形で与えられます。これらをドラームコホモロジー群と呼びます。

    少しそれますが、位相幾何学と微分幾何学の学際領域に微分位相幾何学という分野があり、これは可微分多様体の大域的な性質を調べる分野です。直感的にはどのような空間にも微分構造は唯一決まるイメージですが、驚くべきことに7次元の球面上には微分構造が28種類も存在することが証明されています。また4次元の球面には連続無限個の微分構造が存在することが証明されています。7次元の微分構造の異常さが超弦理論の余剰次元のコンパクト化に関係しているのではないかとも言われており、この世界は人間が思ってる以上に複雑でエキゾチックにできているのかもしれません。

  • 力学系
    物理学の解析力学が発端になります。たまに物理学の力学に分類されたりしますが、数学の一分野です。一般の微分方程式は解析的に解けないのが大多数ですが、無限に時間が経つとどのような運動に近づくのかを調べたり、局所的にはカオス的な挙動に見えても大域的には規則があったりするかどうかを調べたりします。

    力学系のメイントピックの一つがカオス理論です。これは初期条件に非常に敏感になる微分方程式です。バタフライエフェクトという、地球のある地点の蝶々の羽ばたきが、めぐりめぐって別の場所で竜巻となることがある、という慣用句ですが、これがカオス理論を端的に表しています。
    代表的な例にローレンツ方程式があります。これは常微分方程式でありながらカオス性を満たす有名な方程式となります。

  • 情報幾何学
    他の分野からすると少しマニアックですが、機械学習等の応用があり、重要な分野なので紹介しておきます。
    情報幾何学は数理工学者甘利俊一氏により脳の情報処理を解析するために創始された分野で、一言でいうなれば、数理統計学の幾何学化です。数理統計学では確率分布が重要なファクターですが、情報幾何では、この確率分布全体の集合Mを考えます。この集合Mは多様体をなすとします。リーマン幾何学と同様、この多様体Mに計量を定義するのですが、この計量が数理統計学のフィッシャー情報行列を与えると考えるのです。多様体を\(M=\{p_\theta | \theta = (\theta^1,…..,\theta^n)\in \mathbb{R}^n\}\)とすると、計量
    \[
    g_{ij}\equiv \int dp_\theta\frac{\partial}{\partial\theta^i}\log p_\theta \frac{\partial}{\partial\theta^j}\log p_\theta \equiv E_\theta[\partial_i \log p_\theta \ \partial_j \log p_\theta]
    \]
    とすることができます。被積分関数\(\partial_i \log p_\theta \ \partial_j \log p_\theta\)がフィッシャー情報行列となります。
    計量を入れたので、次に接続を入れれるのですが、ここでリーマン幾何学とは少し異なった定義を入れます。リーマン幾何学では、多様体上の 2 つのベクトル場の内積が平行移動前後で不変な接続を考えましたが、情報幾何では2つのベクトル場は異なった平行移動しても構わないが、内積は保存するような接続を考えます。この接続を双対アフィン接続と呼びます。
    こうして、双対アフィン接続から双対平坦という概念が得られ、指数型分布族や混合型分布族が得られます。

    このようにして得られた情報幾何学は、数理統計学での推定や検定を幾何学的に捉えることができます。機械学習は統計的予測ですから、情報幾何を応用することができます。ディープラーニングにおいて学習が停滞するように見える「プラトー」の原因を情報幾何がひとつの解を与えます。
    誤差逆伝播において、ニューロンの係数\(w_i\)の値のどれか2つが等しくなるとき、2点を潰した商空間を考えると\(w_i\)全体の空間は特異点をもつようになります。特異点は力学系のアトラクタと見なせ、このアトラクタの周りに束縛されるのがプラトーの正体となるようです。

    ちなみに誤差逆伝播法は1986年にラメルハートが発表したとされていますが、実は1968年に情報幾何学の創始者の甘利氏が同様の論文を発表していたりします。

最後まで読んでくださりありがとうございます、
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