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書評 関数解析学

関数解析学の参考書について上げていきたいと思います。関数解析はどんなことやるのかについてはこちらをご覧ください。

  • ルベーグ積分と関数解析

測度論のところでも紹介した本です。関数解析のパートは標準的な記載内容ですが、前半のルベーグ積分をバンバン使って関数解析を展開していっており、関数解析は測度論を前提としている点で王道といえば王道な本です。
関数解析のパートとしては、バナッハ空間に始まり、ルベーグ空間、ソボレフ空間、ヒルベルト空間、双対空間とすすみます。作用素のスペクトル分解やコンパクト作用素などもあり、関数解析の標準的な内容を網羅しているかと思います。ただ、やはり基本的な事柄は読者の演習にすることが多く、一人で読むのは気合が必要です。

最近新版が出て、上記の問題も改善され、原則読者の演習にしていた問題のほぼ全てに証明を追加したようです。さらに量子力学への応用を見据えて、関数解析のパートに自己共役作用素のスペクトル分解周辺の話題も追加されたようです。自分が読んだのは旧版で新版の方は読んでませんが、これから読むのであれば新版の方がよいように思います。

  • ヒルベルト空間論 数理物理学方法序説

かなりレア本です。以前住んでいた地域の中央図書館にしれっとあったので、読んでみました。
120ページ程度で、距離空間の導入から有界線型作用素のスペクトル分解まで一気に説明する、最短ルートで進む感じがなかなか小気味いいです。一般論として量子力学で登場する作用素は非有界線型作用素であるので、非有界線型作用素のスペクトル分解が必要です。有界線型作用素のスペクトル分解だけでは量子力学への応用としては足りないのですが、これは筆者による量子力学の構成方法がかなりユニークな形になっているためです。その詳細は同シリーズの量子力学で明らかになります。

関数解析は量子力学だけに応用されているわけではないので、有界な線型作用素のスペクトル分解までも十分価値があり、それを120ページ程度で、到達できるのはかなり良書に入るかと思います。

長らく絶版でしたが、最近紀伊国屋書店で電子書籍で購入することができるようになったようです。

  • 新版 応用のための関数解析

「応用のための」という接頭語にある通り、関数解析の基礎の説明は最低限にして微分方程式やベクトル理論への応用、筆者専門の非線形作用素の章があります。非線形作用素の話はなかなか珍しいかと思います。稠密、完備、可分、バナッハ/ヒルベルト/ソボレフ空間などが定義なし(というか知ってる前提)に出てくるので、関数解析の基本は別の本で学んだ方がよい気がします。実数全体のような非可算濃度な集合を点列の収束で可算濃度のように扱うことが解析学の極意といっていたり、極限が存在する前提での収束定義は現実問題役にたたず、コーシー列の収束を使った方がよい、など経験に基づいた筆者の関数解析に対する考え方が伝わってくる書籍です。数学的な定義をする前に直感的な説明があるのもとっつきやすいかと思います。

  • ヒルベルト空間と線型作用素

なかなかいい感じの書籍です。ヒルベルト空間とその線型作用素に特化してますが、最低限バナッハ空間の話もあり、必要な情報はほとんど網羅されてるので、これ一冊で十分カバーできるかと思います。コンパクトな説明なので、多少行間を埋める必要がありますが、それもいい練習になります。
1~3章まではバナッハ/ヒルベルト空間の導入からスペクトル分解に触れ、4章でコンパクト作用素、トレースクラスの話になります。トレースクラスは密度作用素を含むので、量子統計力学を数学的に扱う際にも役にたつかと思います。5章以降ややマニアックな話になりますが、基本的には作用素論までになっており、作用素環までは踏み込んではないです。なぜか作用素論とは関係なさそうな、バナッハ空間上の確率測度の話が6章の最後にあり、バナッハ空間での確率論/統計学を展開する際に重宝しました。

2021年9月現在、本書の出版元は牧野書店さんからオーム社さんに移り、オーム社さんから引き続き出版されるようです。
※上の図は新版の方です。

  • 量子力学の数学的構造Ⅰ

本書籍は量子力学を数学的に厳密に展開していくもので、量子力学の応用に必要な数学を一から説明しています。量子力学はヒルベルト空間が舞台となるため、ヒルベルト空間の導入から始めてます。関数解析自体を論ずるのではなく関数解析の量子力学へ応用が主眼のため、直接使われないバナッハ空間の説明はほとんどないです。そのためもしかしたら一般のバナッハ空間でも成り立つ定理なのか、ヒルベルト空間でのみ成り立つものか吟味する必要あるかもしれないです。
中身としては、ざっくりヒルベルト空間の性質と線型作用素、スペクトル分解でⅠ巻は終わります。一応立ち位置的には物理学の本のためか、作用素とは言わず終始演算子という言葉を使っています。非有界線型作用素のスペクトル分解まで詳しく説明、証明しています。新井さんの本は行間がほとんどなく、初学者でもじっくりよめば必ず理解できると思うのでその点ではかなりオススメです。
Ⅱ巻でⅠ巻で証明した数学的事実を用いて量子力学を公理論的に組み立てていきます。

  • 関数解析

辞書に近い本で関数解析に関する事柄はほぼ全て網羅されています。もう少し薄めの本で関数解析全体を学び、さらに知識を深めたいところはこの本で補う的な使い方がよいと思います。500ページを軽く超えてくるので、通読は現実的に厳しい気がします。こちらも説明が丁寧なので、じっくり読めば理解できるものかと思います。

私は絶版のものを近所の図書館で借りて、少し読みました。最近上記URLのように復刻したようで手に入りやすくなったかと思います。関数解析を専門にするならば持っておくべき一冊かと思います。

2021/12/23追記

実際に購入して読んでますが、非常に論理展開が丁寧で、とてもおすすめです。それゆえの500ページを超える分量になっていることを改めて感じています。独学に最適な一冊です。

書評 関数解析学」への7件のフィードバック

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