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書評 量子情報

  • 量子コンピューター入門

ブラケットを容赦なく使っているので、量子力学の基礎は一通り知ってる、最低限線型代数は知っておいた方がいいです。その前提であれば、コンパクトにまとまった良書かと思います。

量子コンピュータに一歩踏み込んで理解しようとすると、量子ビットを扱う必要があります。量子ビットの物理的実体を論じるようになると、どうしても多少物理学の知識が必要になります。がそこは割り切って流して読み進める必要があります。

例えば量子ビットの物理実体は、光子の偏光状態、電子のスピン状態などですが、このあたりの話があまり前置きなく出てきます。このあたりは割り切って読み進めた方が得策です。
※光子やスピンの本格的な理解まで辿ると、量子力学を超えて量子電磁気学(QED)という場の量子論が必要になるので、どこかで割り切ることは重要です。目的が量子コンピュータの概要を知りたいことなのに、ゴリゴリその背景の物理学をやっていたのでは、いつまでたっても量子コンピュータの概要を把握できません。時間は有限です。

160ページくらいの分量なので、いくつかのトピックに絞って解説しています。ざっくりいうと、量子ゲート(4章)、ショアのアルゴリズム(5章)、エラー訂正(6章)、量子テレポーテーション(7章)となります。量子情報はこれ以外にも重要なトピックがありますので、そこは別の書籍を参照する必要があるかと思います。

多少数学や物理の知識がある人が量子コンピュータとは、を知るには良い本かと思います。


  • 量子情報理論

量子情報の参考書として、これ一冊で量子情報の基礎となる知識は網羅できる良書です。量子情報理論で使う量子論の説明や、論理回路やチューリングマシン、シャノンの定理といった情報/通信理論の解説もあり、物理屋や情報屋それぞれをターゲットにできる量子情報理論の教科書と言える内容かと思います。そこまで数学的な厳密性はこだわらないスタンスなので、書籍の見た目は難しそうな雰囲気ですが、いい意味で裏切ってくれます。全体的に読みやすいです。
量子論や情報の話が終わると、量子ゲートや量子計算、量子暗号などの話になり、最後に量子計算機の物理的実装方法について説明しています。量子計算では、ドイチュ・ジョザのアルゴリズムやショアのアルゴリズム、グローバーのアルゴリズム等、量子暗号ではBB84などの量子鍵配送について解説されており、十分な内容になってます。

量子情報を割としっかり目にやりたいのであれば、この書籍を1冊目にして、じっくり読むでもよいかと思います。

私は第二版を読んだのですが、2019年に第三版が出たようで、人気高めのようです。


  • 量子情報科学入門

上記2つの書籍と比べると全体的に数学色が強いです。本格的な無限次元の話はないものの、線型代数を超えて、関数解析寄りの概念にも触れています。

1章~3章までは線型代数の知識があれば、なんとか読み進められますが、4章以降は量子論を公理論的に展開しているので、量子力学の基礎知識に加え、現代数学の論理展開、公理/要請→定義→定理→証明に慣れていないと正直厳しいかもしれません。初学者向けというよりはガチ勢向けの書籍かと思われます。
私は刊行当初(2012年)に購入して読みましたが、当時の知識では数学的記述についていけず、、4章の途中で力尽きましたが、ある程度数学的知識がついた今改めて読んでみると形式的すぎるわけではなく、程よく抽象的でわかりやすいです。公理論的論理展開に慣れている方には最初に本書で学ぶ方がよいかもしれません。

取り扱うトピックもマニアックなものも含み、研究者が持っていてもよさそうな雰囲気があります。この書籍を読み切れればこの分野の論文も読めるレベルかと思います。


  • 量子計算理論

2000年代になってから提唱された測定型量子計算を元にしており、このあたり言及しているのは珍しいです。
量子系を測定すると、いわゆる「波束の収縮」と呼ばれる、ある物理量の固有状態の一つに「不可逆」に遷移します。つまり測定するのにも対象の量子系に影響を与えてしまうことになり、測定型量子計算はこの「測定の作用」をうまく利用して、量子計算させるものになります。測定型量子計算はかなり新しいタイプの量子計算であり、本格的に使用している数少ない書籍が本書籍です。

量子論のみならず、計算機科学分野の計算量理論の定式化に慣れていないと読み進めるのはきついかと思います。その名前の通り、量子計算の計算理論で、ゴリゴリの理論計算機科学の内容となります。
※私事ですが、計算理論の定式化にどうにも馴染めず、こちらで紹介した、Sipserの計算理論の基礎(邦訳版)を読み始めた経緯があります。本書籍の参考文献にも挙げられてます。
そろそろまた再読始めてみたいところではあります。

後半の方の、「状態の検証」、「量子対話型証明系」、「超量子計算」、「非ユニバーサル量子計算」あたりはこの本以外ではあまり見かけないなかなかマニアックな内容で、このあたりに興味があるのであれば、まずは本書籍をとるのがよいかと思います。

セミプロ以上向けの書籍かと思います。



  • 観測に基づく量子計算

測定型量子計算について解説した書籍です、2022年現在でも測定型量子計算について解説した書籍は本書か上記「量子計算理論」くらいでしょうか。

まず、1章で量子計算の歴史の中における測定型量子計算の解説や歴史を概観し、2章で測定型量子計算の基礎に触れています。3章以降は比較的独立した章になっていて、物性物理学/統計物理学やエラー耐性/暗号理論/計算理論との関連について解説されています。

ざっくり目次は以下のようになってます。
1.量子コンピュータモデル
2.測定型量子計算の基礎
3.テンソルネットワーク上での測定型量子計算
4.測定型トポロジカル量子計算
5.イジング模型分配関数と測定型量子計算
6.ブラインド量子計算(セキュアなクラウド量子計算)
7.測定型量子計算と計算量理論

詳細の目次や立ち読みはコロナ社さんのページにありますので、必要に応じてご参照ください。

測定型量子計算は新しいタイプの量子計算方法ということもあり、和書が少ないです。本格的に学びたいのであれば、本書籍を読むのがよいかと思います。

書評 量子情報」への2件のフィードバック

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