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ε-δから連続写像へ

こんにちは、こちらの記事で\(\varepsilon\)-\(\delta\)論法で連続を定義を定義しました。その定義は

\[\forall \varepsilon>0,\exists \delta >0\ s.t. \forall x ,|x-a|<\delta \Rightarrow |f(x) -f(a)|<\varepsilon \]

というもので、「\(\forall\varepsilon >0\)に対して\(\exists \delta>0\)が存在して、\(|x-a|< \delta\)となる\(\forall x\)に対して、\( |f(x)-f(a)|<\varepsilon\)が成り立つとき、\(f(x)\)は\(a\)で連続であるという。」という意味でした。

今回これをさらに一般化/抽象化するのが目標です。結構雰囲気的な説明が多いので、気になる人は位相空間論の参考書を参照ください。

↑の連続の定義は、実は前提があります。それは\(x\)や\(f(x)\)は実数に値をとることです。ある集合が実数全体の部分集合であることは、条件の強い特別な場合になりますので、実数の集合から連続を定義するのに必要な条件だけをもつ集合に拡張していきます。

まず連続の定義の「\(|x-a|<\delta\)」に注目します。これをよく見ると「\(a\)を中心として半径\(\delta\)未満の球」と見ることもできます。厳密ではないですが、縁のない集合を開集合というので、「\(a\)を中心として半径\(\delta\)未満の球」は「何かしらの開集合」と表現することができます。
同様に「\( |f(x)-f(a)|<\varepsilon\)」も何らかの開集合と表現できるので、連続の定義は大雑把にいえば

「何かしらの開集合から、何らかの開集合へ移す写像」と読み替えることができます。

さて開集合をもう少し深掘りしてみます。開集合は縁のない集合といいましたが、「縁がない」ということについて考えてみます。

もし\(X\)が絶対値のように距離を定義できる距離空間\( (X,d) \)とすると、\(X\)の部分集合\(U\)の任意の元\(x\in U\)に対して、ある\(\delta\)が存在して、\(d(x,y)<\delta\)となる\(y\)が\(y\in U\)になるとき、\(U\)は開集合になります。
ここでのポイントは縁がないので、\(U\)の境界のいくらでも近くに\(x\)とそれに依存した\(\delta\)が取れる点です。仮に縁があると境界上に\(x\)が取れてしまい、それに対応する\(\delta\)は\(0\)しかとれないことになり、そのような\(U\)は開集合でないことになります。(この場合\(U\)は閉集合と呼ばれます。)

開集合の特筆すべき性質として、開集合の集合を\( O = \{U_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda }\)とすると
1)開集合の合併は開集合:\(\bigcup_{\lambda\in \Lambda}U_{\lambda} = U_1\cup U_2 \cup … \subset O\)
2)開集合の有限回の交叉は開集合:\(\bigcap_{\lambda\in \{1,.,n\}}U_{\lambda} = U_1\cap U_2 \cap ….\cap U_n \subset O\)
が挙げられます。

さらに、開集合を抽象化して、上記の性質を満たすような部分集合を開集合とする、という発想に切り替えます。そうすることで「距離」という概念は「位相」という考え方にリプレースされます。

DEF 位相空間
\(X\)を集合とし、\(O(X)\)をその部分集合族とする。以下の性質をみたすとき\( (X,O(X))\)を位相空間という。
\begin{split} & \mathrm{1)}\ \phi,X \in O(X) \\ &\mathrm{2)} \ \bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_{\lambda} = U_1\cup U_2 \cup … \subset O \\ &\mathrm{3)}\ \bigcap_{\lambda\in \{1,.,n\}}U_{\lambda} = U_1\cap U_2 \cap ….\cap U_n \subset O \end{split} このとき\(O(X)\)を位相といい、\(O(X)\)の元を開集合という。

位相空間の定義はいきなりこれだけみても正直全然わからないかと思いますが、開集合や距離の概念を極限まで抽象化したらこうなった、というものです。この抽象化により、さまざまな集合に位相や開集合という概念を適用できるようになり、代数学から幾何学、解析学まで共通で使えるようになった概念となります。

さて連続写像は「何かしらの開集合から、何らかの開集合へ移す写像」でした。開集合は位相の元のことですから、これは「位相の元から位相の元へ移す写像」ということができます。

位相空間の連続写像の定義は以下になります:

DEF 連続写像
\( (X,\mathcal{O}(X)),(Y,\mathcal{O}(Y)\)を位相空間とする。写像\(f:X\rightarrow Y\)が任意の開集合\(V\in \mathcal{O}(Y)\)に対して、 \[\{x\in X | f(x) \in V \}\equiv f^{-1}(V) \in \mathcal{O}(X)\] となるとき、\(f\)を連続写像という。

これは、値域側(つまり写した後)が開集合ならば、その定義域側(つまり移すもと側)も開集合のとき連続であるといってます。つまり連続写像というのは「位相構造を保つ写像」と考えることができます。こう考えることで、位相と同様に連続という概念を代数学や幾何学、解析学の諸分野に適用できるようになります。

写像の前後で構造が変わらないものを特別な写像とする、というのは数学で重要な考え方でよく見かけるものです。本ブログでもこちらで可測写像の説明をしましたが、これは「可測性を保つ写像」と説明しました。

構造を保つ写像のもう一つの例として線型写像があります。\(X,Y\)を複素数体上の線型空間とし、写像\(f:X\ni x\rightarrow f(x)\in Y\)が、\(f(ax_1+bx_2)=af(x_1)+bf(x_2),\ a,b \in \mathbb{C}\)となるとき\(f\)を線型写像といいます。これは写した後の\(Y\)でも線型になることを意味しており、「線型性を保つ写像」と理解できます。

このような、構造を保つ写像をまとめて「準同型写像」と呼びますが、ゴリゴリの代数学の領域となるので、また別の機会に説明します。

かなり駆け足でしたので、端折って説明してる部分や雰囲気的/ノリ的な説明もありますが、\(\varepsilon\)-\( \delta\)の先にどんな内容があるのか少し紹介してみました。もし位相空間の詳細が気になる方は位相空間論の教科書を参照ください。位相空間論は数学のどの分野でも基礎となるので、勉強して損はないです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。
質問等はコメント欄かお問い合わせにてよろしくおねがいいたします。

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