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サラリーマンが関数解析を勝手に解説する無謀な記事8

こんにちは、ちょっとマニアックになってきましたが、前回自己共役作用素の話をしましたが、スペクトル分解に入る前に、自己共役作用素の例を少しあげていきます。

1)掛け算作用素

まず簡単な例からあげます。ヒルベルト空間を\(\mathcal{H}=L^2(X,\mathcal{F},\mu)\)にとり、内積を
\[
\langle f,g\rangle = \int f(x)\overline{g(x)}\mu(dx)
\]
ととります。線型作用素\(M_{\psi}:L^2(X)\ni f \rightarrow M_{\psi}(f)\in L^2(X)\)を
\[
M_{\psi}(f)\equiv \psi(x)f(x),\ \int_X \left| M_{\psi}\right|^2 \mu(dx) < \infty
\]
と定義します。
要は、\(M_{\psi}(f)\)は、\(f(x)\)に\(\psi(x)\)を掛ける作用素のことで、シュレディンガー作用素(後述)のポテンシャル\(V(x)\)に相当するものです。

明らかにこれは任意の\(f,g\in L^2(X)\)に対して\( \langle f,M_{\psi}g\rangle = \langle M_{\psi}f,g\rangle\)を満たし、さらに\(\mathrm{dom}M_{\psi} = \mathrm{dom}M_{\psi}^*\)を満たすので、これは自己共役作用素になります。

2)微分作用素

\(L^2(X)\)上の線型作用素\(p:L^2(X)\ni f \rightarrow pf\in L^2(X)\)を
\[
pf\equiv -i\frac{\partial f}{\partial x}
\]
について考えます。\(p\)の定義域\(\mathrm{dom}p\)は微分可能な関数に限られるので、\(L^2(X)\)全ての元に適用できるわけではなく、少なくともソボレフ空間\(W_2^n(X),n\geq 1\)になります。ソボレフ空間の性質として、\( W_2^k(X)\subset W_2^{k-1}(X)\subset …\subset W_2^1(X) \)が成り立つので、今回\(W_2^1(X)\)ととります。このとき部分積分を使うと、任意の\(f,g\in W_2^1(X)\)に対して、
\[
\langle pf,g\rangle = \int -i\frac{\partial f}{\partial x}\overline{g(x)}\mu(dx)
=-if(x)\overline{g(x)}\ \Big |_X +i\int_Xf(x)\frac{\partial \overline{g(x)}}{\partial x}\mu(dx) \\
=-if(x)\overline{g(x)}\ \Big |_X +\langle f,pg\rangle
\]
となることから、\(X=[0,1]\)とし、\(f,g\)は周期境界条件\(f(1)=f(0),g(1)=g(0)\)を満たすとします。このとき
\[
\langle pf,g\rangle =\langle f,pg\rangle
\]
を満たすので対称作用素であり、\(\mathrm{dom}p=\mathrm{dom}p^* \)を満たすので、自己共役となります。以上まとめると、

\[
pf = -i\frac{\partial f}{\partial x},\ \mathrm{dom}p = \{f \in W_2^1([0,1])\subset L^2([0.1])\mid f(1)=f(0) \}
\]
なる線型作用素\(p\)は自己共役になります。

ここですこし、\(p\)をいじってみます、例えば、
\[
p_1f = -i\frac{\partial f}{\partial x},\ \mathrm{dom}p_1 = \{f \in W_2^1([0,1])\subset L^2([0.1]) \}
\]
のように周期境界条件を削除してみます。すると、\(\langle f,pg\rangle \neq \langle pf,g\rangle \)となり、エルミート作用素ですらなくなります。

次に、以下のようにいじってみます。
\[
p_2f = -i\frac{\partial f}{\partial x},\ \mathrm{dom}p_2 = \{f \in W_2^1([0,1])\subset L^2([0.1]) \mid f(1)=f(0)=0\}
\]
つまり、境界上の\(x\)で\(f(x)=0\)を要求するようなものです。このとき\(\langle f,pg\rangle = \langle pf,g\rangle \)と、\(\mathrm{dom}p\)は\(L^2([0,1])\)において稠密であることから、対称作用素になります。しかし\(p\)とその共役作用素\(p^*\)の定義域が\(\mathrm{dom}p\neq\mathrm{dom}p^*\)であることから自己共役作用素にはなりません。

以上より、同じ微分作用素であっても境界条件に依存して、対称作用素になったり、自己共役作用素になったりして、かなりセンシティブなものになります。

このような感じで自己共役性を証明することはかなり難しい問題です。シュレディンガー作用素\(H\)は
\[
H = \left(-\frac{\hbar^2}{2m} \sum_i\frac{\partial ^2}{\partial x_i^2} + V(x)\right)
\]
のような形の作用素ですが、これは量子力学が建設されてから、いろいろなポテンシャル\(V(x)\)でのエネルギー固有値が解かれていきました。しかしシュレディンガー作用素が自己共役であることは、1951年に日本の数学者加藤敏夫氏によって、ようやく証明されました。量子力学が創設されて約四半世紀後のことです。それくらい難しい問題です。

すみません、スペクトル分解の話も少ししようとしましたが、全く辿りつかずにそれなりの分量になったので、本稿はここまでにします。

最後まで読んでいただきありがとうございます。
質問等はコメント欄かお問い合わせにてよろしくおねがいいたします。

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