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サラリーマンが関数解析を勝手に解説する無謀な記事11

こんにちは、本日はコンパクト作用素について、勝手にジコマンで解説していきます。

こちらで触れたように、線型作用素のスペクトルは、その無限次元性のため行列のような離散的な固有値になるとは限らなかったと思います。では逆に線型作用素のうち行列の固有値のようなスペクトルをもつものはあるのか、という疑問がわきますが、これがコンパクト作用素になります。

DEF.16 コンパクト作用素
\( (\mathcal{H},\langle\cdot,\cdot\rangle) \)をヒルベルト空間とし、\(A\)を\(\mathcal{H}\)上の線型作用素とする。このとき
\[ \{Ax\mid x\in\mathcal{H}, \|x\|\leq 1 \} \] の閉包\(\overline{Ax}\)がコンパクトであるとき、\(A\)をコンパクト作用素、もしくは完全連続作用素という。
\(\mathcal{H}\)上のコンパクト作用素全体の集合を\(C(\mathcal{H})\)で表す。

ある集合\(A\)の閉包がコンパクトであることを、\(A\)が相対コンパクトである、と言ったりもします。コンパクトの定義はこちらの記事も参照ください。

コンパクト作用素をざっくりいうと、写した後の\(Ax\)の閉包までとれば、その任意の点列\(\{y_n\}_n\)は\(\overline{Ax}\)に収束する部分列をもつような線型作用素\(A\)ということができます。
※ヒルベルト空間はノルムに関して距離空間になるので、単にコンパクト性を点列コンパクトに言い換えただけではあります。

さて、コンパクト作用素のスペクトル分解する上で、次の表記法を定義すると便利になります。\(x,y,z\in\mathcal{H}\)として、
\[
(x \otimes y )z \equiv \langle z,y \rangle x
\]
とします。(シャッテン形式といいます。)明らかに\((x \otimes y )\in B(\mathcal{H})\)となります。

コンパクト作用素のスペクトル分解は以下のようにまとめられます。

THM.5 コンパクト作用素の固有値分解
\(A\in C(\mathcal{H})\)とする。このとき、正規直交系\(\{x_n\}_n\)と無限列\(\{\lambda_n\}_n\)が存在して、 \[ A=\sum_n\lambda_n x_n\otimes x_n \] と表すことができる。

すなわち、\(Az = \sum_n\lambda_n (x_n\otimes x_n)z =\sum_n\lambda_n \langle z, x_n\rangle x_n \)となるので、可算個の固有値に分解することができることになります。コンパクト作用素が行列の無限次元版的なものであることが、スペクトル分解から読み取れる感じになります。

コンパクト作用素のうち特別なものが存在します。線形代数において、行列のトレースというものがあったかと思います。これは行列\(A=\{(a_{ij}) ,\mid 1\leq i,j\leq n\} \)のトレース\(\mathrm{tr}\)を
\[
\mathrm{tr}A = \sum_i^n a_{ii}
\]
とするようないわゆる対角和のことでした。コンパクト作用素でもこの行列のトレースにあたるものを定義することができます。

DEF.17 トレース
ヒルベルト空間\(\mathcal{H}\)の完全正規直交系を\(\{e_n\}_n\)とし、\(A\geq 0\)を\(\mathcal{H}\)上の線型作用素とする。このとき
\[ \mathrm{Tr}A \equiv \sum_n\langle Ae_n,e_n\rangle \] で定義される写像\(\ \mathrm{Tr}:B(\mathcal{H})\ni A \rightarrow \mathrm{Tr}A\in \mathbb{C}\)を\(A\)のトレースという。
さらに、\(\mathrm{Tr}|A|\)をトレースノルムといい、 \[ C_1(\mathcal{H})\equiv\{A\in C(\mathcal{H})\mid \mathrm{Tr } |A|<\infty\} \] をトレースクラスという。トレースクラスの元をトレースクラス作用素という。

いくつか補足ですが、\(A\geq 0\)というのは、\(\forall x\in \mathcal{H}\)に対して、\(Ax\geq 0\)が成り立つ時の略記になります。
また作用素の絶対値\(|A|\)ですが、これは少し説明が必要ですね。以下記載していきます。

まず作用素の平方根です。線型作用素\(A\)が\(A\geq 0\)をみたすとき、\(B^*B=A\)となる\(B\)が一意に存在することを示すことができます。これを\(A\)の平方根といい、\(\sqrt{A}\)などで表します。
\(A^*A\geq 0\)であるので、\(\sqrt{A^*A}\)を定義でき、これを絶対値といいます。\(|A|=\sqrt{A^*A} \)と定義する感じです。
これらを使うと作用素の極分解を定義することができます。イメージは複素数を極座標表示\(z=r\exp{i\theta}\)と同じく、大きさと方向の成分に分ける感じです。ちょっと話しが逸れてきそうなので、このあたりはまた別の機会に説明したいと思います。

トレースに戻りますが、トレースは量子統計力学で出てくる密度作用素を扱う上で重要になってきます。分配関数という基本的な量があるのですが、これは
\[
Z=\mathrm{Tr}\exp(-\beta H)
\]
という形で表されます。ここで、\(H\)はハミルトニアン作用素で、\(\beta\)は逆温度と呼ばれる係数です。他にも様々な物理量でトレースが現れるのですが、また別の機会に解説したいと思います。

本日はここまでにします。

最後まで読んでいただきありがとうございます。
質問等はコメント欄かお問い合わせにてよろしくおねがいいたします。

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