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サラリーマンが測度論を勝手に解説する無謀な記事7

本日はマニアックですが非可測集合について話したいと思います。本記事はこちらで紹介した伊藤さんのルベーグ積分入門を参考にしてます。

可測集合に関しては本シリーズの初めの方の記事に記載しました。まぁぶっちゃけ、ぱっと思いつくような集合はほぼ可測集合です。
ならば可測集合ではない集合、つまり非可測集合は存在するのか、存在するとしてはどんな集合なのかを話すのが今回の内容です。

其の1

まず、任意の実数\(\ r,x \in \mathbb{R}\)に対して、ある有理数\(q\in \mathbb{Q}\)が存在して、\(r-x=q\)となるとき、\(r,x\)を同一視するような同値類を\(R_x\)とおきます。つまり
\[
R_x = \{r \mid r-x \in \mathbb{Q}\}
\]です。ここで任意の\(x,y\in \mathbb{R}\)に対して、
・\(x\in R_x,y\in R_y\)
・\(y\in R_x\)ならば\(x\in R_y\)
・\(x\in R_y\)ならば\(y\in R_x\)
が成り立つことがわかります。つまり任意の実数\(x,y\)は\(R_x,R_y\)に一致するか、交わらないかの二択になります。
したがって、\( \mathbb{R}\)は、同値類\(\{R_x\}_x\)によって分割できることになります:
\[
\mathbb{R} = R_{x_1}\cup R_{x_2} \cup……=\bigcup_x R_x \tag{1}
\]

其の2

次に同値類\(R_{x_1},R_{x_2},….\)の代表元をそれぞれ\(x_1,x_2,….\)と選び、それを一列にならべた集合を
\[
A=(x_1,x_2,…..)
\]とおきます。
(これはしれっと選択公理を仮定してます。選択公理は最後に少し紹介します。)
\(q\in\mathbb{Q}\)として、ある代表元\(x_i\)と\(x_i-q\)は同じ同値類に含まれるので、集合\(A\)は\((0,1]\)に収まります。つまり\(A\subset (0,1]\)となります。
\(q\in (0,1] \cap \mathbb{Q}\)に対して、集合\(A_q\)を
\[
A_q = (A+q)\cap (0,1] + (A+q-1)\cap (0,1]
\]と定義します。このとき、
 1) \(r,s \in (0,1]\cap\mathbb{Q}\)かつ、\(r\neq s\)ならば、\(A_r\cap A_s = \phi\)
 2) \(\sum_{q\in(0,1]\cap\mathbb{Q} }A_q=(0,1] \)
が成り立ちます。
実際、1)に関して、\(A_r\cap A_s \neq \phi\)と仮定します。\( x\in A_r\cap A_s \)とすると、\[
x = x_1 +r’ = x_2 + s’ ,\ \left\{\begin{matrix} r’=r \mathrm{\ or} \ r’=r-1 \\ s’=s \mathrm{\ or} \ s’=s-1 \end{matrix}\right.
\]となるような\(x_1,x_2\)が存在することになります。\(x_1-x_2 = s’-r’ \in\mathbb{Q}\)となるので、\(x_1=x_2\)となり、\(r’=s’\)となります。ゆえに\(r=s \mathbb{\ or} |r-s|=1\)を意味しますが、これは最初の仮定、\(r,s \in (0,1]\cap\mathbb{Q}\)かつ\(r\neq s\)に矛盾にします。ゆえに\(A_r\cap A_s = \phi\)が成り立ちます。
次に2)についてですが、\(\sum_q A_q\subset (0,1]\)は定義から明らかなので、\(\sum_q A_q\supset (0,1]\)を示します。任意の実数\(\ x\in (0,1]\)を取ると、\(\mathbb{R}\)の直和分解(1)からいずれかの同値類に属するので、それを\(R_q \)とします。このとき、\(x=x_q + q\)、\( \ x,x_q \in (0,1]\)であるから\(|q|\leq 1\)が言えます。ここで
・\(q>0\)ならば\(q\in (0,1]\cap\mathbb{Q}\)となるので、\(x\in A_q\)、
・\(q\leq 0\)ならば\(1+q\in (0,1]\cap\mathbb{Q}\)となるので、\(x=x_q+(1+q)-1\in A_{1+q}\)
が成り立ちます。ゆえに\((0,1]\)の任意の実数\(x\)に対して、\(x\in A_q\)もしくは\(x\in A_{1+q}\)が成り立つので、\((0,1]\subset \sum_{q}A_q\)がいえます。よって、\(\sum_{q\in(0,1]\cap\mathbb{Q} }A_q=(0,1]\)が成り立ちます。

其の3

最後に集合\(A\)がルベーグ非可測集合であることを示します。\(A\)がルベーグ可測集合と仮定すると、ルベーグ測度の性質より\(A+q\)と\(A+q-1\)も可測集合であることが知られています。よって、

\[
\mu(A_q)=\mu( (A+q)\cap (0,1]) +\mu((A+q-1)\cap(0,1] ) \\
= \mu\{ (A+q)\cap (0,1]\}+\mu\{(A+q)\cap(1,2] \}\\
=\mu\left\{ (A+q)\cap \big((0,1] +(1,2] \big) \right\} \\
=\mu\left\{ (A+q)\cap \big((0,2] \big) \right\}
\]

ここで\(A\subset (0,1],q\in (0,1]\cap\mathbb{Q}\)であるので、\( (A+q) \subset (0,2]\)であるので、

\[
\mu(A_q)=\mu\left\{ (A+q)\cap \big((0,2] \big) \right\} =\mu(A+q)=\mu(A)
\]

が成立します。ここで
・\(\mu(A)>0\)ならば、上記の結果と其の2(2)から、\(\mu((0,1] =\sum_{q\in(0,1]\cap\mathbb{Q} }\mu(A_q)=\infty \)となるため、測度の性質を満たさず、
・\(\mu(A)=0\)ならば、上記の結果と其の2(2)から、\(\mu((0,1] =\sum_{q\in(0,1]\cap\mathbb{Q} }\mu(A_q)=0 \)となるため、測度の性質を満たさないことになります。

したがって\(A\)は可測集合ではないことが言えます。

最後に

この集合\(A\)が冒頭で紹介した、(ルベーグ)非可測集合となります。正直イメージが相当つきにくいです。

上記一連の流れで、キモとなっているのは\(A\)を構成するときに選択公理を仮定したことです。上記一連の流れを一言でいうと「選択公理を仮定すると非可測集合が存在する」ことになります。

この選択公理とは公理論的集合論のなかでも、最も自明でない公理と言われており、これは、
「無限個の集合列から元を取得して、集合をつくることができる」というのを認める公理です。

一般的な感覚からすると全く問題ないような気がしますが、、、これは次のような事実があるためです。
選択公理が自明でないと言われている理由のひとつに、バナッハ・タルスキーのパラドックスがあり、球を有限個に分割して、適当に組み替えたりすると元の球と同じ球を2つ作ることができる、というものです。直感とはかけ離れた結果が得られてしまうため、公理の中でも議論の余地があるものとなってます。

とはいえ、この選択公理を仮定することで、様々な定理が導かれることも事実です。ツォルンの補題やハーン・バナッハの拡張定理等が例です。今ではほとんどの場合選択公理を仮定していることが多いです。

本日はここまでにします。

最後まで読んでいただきありがとうございます。
質問等はコメント欄かお問い合わせにてよろしくおねがいいたします。

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