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量子力学の誤解を解くための記事

こんにちは、本日は量子力学の誤解について勝手に解説していきます。

その特異な性質からトンデモに紐付けやすい量子力学ですが、近年量子コンピュータがアツくなってきていることもあり、謎の解釈の横行が激しくなってきています。

最初に言っておくと、量子力学をしっかり学びたいのであれば、謎めいた自己啓発本ではなく例えばこちらで紹介したような正統的な量子力学の本で学んでください。

本稿は以下の事柄について解説します。

  1. パラレルワールドが存在する
  2. 量子もつれが超光速で情報伝達できる
  3. ものの最小単位は「ひも」である
  4. 量子力学によると素粒子は消滅したり生成したりする

1)パラレルワールドが存在する

「量子力学がパラレルワールドの存在を証明している」という文言をよく見ますが、これは正しくありません

量子力学では、重ね合わせの原理という概念があります。固有状態\( \ \psi_1 ,\psi_2\ \)があったとき、その線型結合\[
\psi = a\psi_1 + b\psi_2 ,\ \ a,b\in \mathbb{C}
\]も状態となることを謳ったものです。

数学的には線型空間で線型結合をとることは自然なのですが、重ね合わせた状態を物理学的にどういうふうに解釈したらよいか、という問題があり、現在は主に2つの解釈があります。

・コペンハーゲン解釈
・多世界解釈

コペンハーゲン解釈が確率解釈で、ざっくりいえば量子は確率的な振る舞いをする、という解釈です。\( \psi \)を観測すると、確率\( |a|^2\)で\(\psi_1\)が観測され、確率\( |b|^2\)で\(\psi_2\)が観測される、という解釈です。
物理学全体としてはコペンハーゲン解釈の方が支持されています。

一方多世界解釈は、\(\psi_1\)である世界と\(\psi_2\)である世界が同時に存在していて、\( \psi \)を観測したとき、どちらかの世界に移行する、というものです。確率\( |a|^2\)で\(\psi_1\)の世界に移行し、確率\( |b|^2\)で\(\psi_2\)の世界に移行します。
互いの世界に干渉することはできないので、\(\psi_1\)である世界から\(\psi_2\)である世界の存在を認知することはできません。

ここで注意ですが、量子力学は確率\( |a|^2\)や\( |b|^2\)を計算する方法を与えるまでを範疇としていて、どちらの解釈が正しいかは言及しません。(できません。) この2つの解釈は、私たち人間が住むこの世界はどうあるべきか、という哲学的背景から創作されたもので、実験で検証できる類のものではありません。実験で検証できないものは自然科学としての土俵にすら立てないのです。

※物理学にかぎらず自然科学というものは誰でも実験によってその正当性を検証できるものという大前提があります。

そのため物理学としては、やや乱暴かもですが「実験で検証できないので、どっちでもよく、各個人で好きな解釈を選べばいい」という立場です。

量子力学がパラレルワールドを証明したわけではありません。いくつか考え方がある中で、そういう考え方もある、というだけにすぎません。

2)量子もつれが超光速で情報伝達できる

結論からいうと、そんなことはできません

相対性理論で保証されているように情報伝達は光速を超えられません。そんなことができれば、因果律が崩壊します。

例えば、東京で元々1つだったスピンゼロの量子が2つの量子に分裂して、横浜にいるAさんと大宮にいるBさんで量子のスピンを観測する場合を考えます。ざっくりいうとスピンとは量子の自転による磁気のようなもので上向き/下向きの状態をそれぞれ\( |\uparrow \ \rangle \)、\(|\downarrow \ \rangle \)という記号で示します。
また運動量保存則から、

元々1つだった状態の運動量 = 分裂した2つの量子の運動量の和

が言えます。すなわち

・Aのスピンが上向き and Bのスピンが下向き
・Aのスピンが下向き and Bのスピンが上向き・

の2通りが考えられます。これを量子力学を用いて式で表すと\[
\frac{1}{\sqrt{2}}\Big(|\uparrow \ \rangle_A|\downarrow \ \rangle_B + |\downarrow \ \rangle_A|\uparrow \ \rangle_B \Big)
\]となります。(これを量子もつれ、エンタングルメントと言ったりします。)

ここで横浜にいるAさんが観測したとします。観測の結果\( |\uparrow \ \rangle \)であったとすると、大宮にいるBさんは自動的に\(|\downarrow \ \rangle \)になります。(逆も然り。)

これが横浜のAさんの観測という行為によって、大宮のBさんの状態が瞬時に伝わる、光速を超えて瞬時に伝わった、という説明になるのですが、正しくありません
というのもBさんは\(|\downarrow \ \rangle \)であるという情報をもっておらず、そもそもAさんが観測したという事実さえも知りません。
Aさんの観測結果をBさんに伝えるには、インターネットや携帯電話などを通して情報伝達しないといけませんが、これは光速を超えることはできません。したがって因果律も崩壊することもありません。

情報伝達が超光速で伝わることはないのです。

3)ものの最小単位は「ひも」である

よく最新の物理学の理論によると物質の最小単位はひもである、という説明をよく聞きますが、これも厳密には現状正しくありませんひもの存在は実証されていないからです

超ひも理論という分野では最小単位は「ひも」で、これがさまざまに振動することで、素粒子を演じるという描像です。

(厳密には「ひも」のように振る舞う場合もある実体。常にひものように振る舞うわけではないです。ここでは慣例によって「ひも」と表現します。)

超ひも理論が物理学(というか自然科学)となるには「ひも」の存在を実験で証明する必要がありますが、現代の実験技術では検証不可能です。

物理学ではエネルギーの単位に\(\mathrm{eV}\)という単位を使うのですが、これは電子1個を\(1 \mathrm{V}\)の電圧をかけた時に得るエネルギーの単位です。\(1\mathrm{eV}\)がどれくらいのエネルギーかというと、温度に換算するとだいたい\(10000 \mathrm{K}\)というスケールのエネルギーです。

人類が到達できるエネルギー領域は、欧州にあるCERNの加速器を用いることで \(10 \mathrm{TeV} = 10\times 10^{12}\mathrm{eV} \)ほどの領域に達することができます。(これでもすごいことです)
しかし「ひも」を観測するには \(10^{16} \mathrm{TeV} = 10^{16} \times 10^{12}\mathrm{eV} \)、今の1000兆倍ほどのエネルギー領域に達する必要があり、少なくとも21世紀中になんとかなるレベルのものではないです。

つまり超ひも理論は実験で検証された物理学理論ではなく、現状は数学的な仮説の段階の理論です。自然科学の大前提は実験でその正当性を検証できるものですが、それが現状不可能なので、物理学理論とは言い難いです。

遠い将来、実験技術が向上して、何かしらの方法で「ひも」を検証できた場合、超ひも理論が物理理論になることも十分考えられます。超ひも理論は重力を量子化した理論、量子重力理論の候補の1つであることも事実です。

(少しそれますが、超ひも理論の「超」という接頭語ですが、これは超対称性と呼ばれる対称性からきています。詳細は割愛しますが、超対称性を認めると超対称パートナーと呼ばれる粒子が存在することになります。超対称性は「ひも」のみに適用されるわけではなく、既存の電子やクォーク等にも当てはまります。残念ながら超対称パートナーの痕跡すら見つかってない現状で、超ひも理論の検証はまだまだ前途多難の様相を呈しています。)

4)量子力学によると素粒子は消滅したり生成したりする

これも厳密にいうと正しくありません量子力学の範疇では粒子の生成/消滅を扱うことはできないからです。

これらを扱うには場の量子論(量子場理論、QFTとも)を用いる必要があります。場の量子論は実験によって検証された物理学理論の1つです。こちらでも紹介してますが、電子の異常磁気能率という物理量があるのですが、これが理論値と実験値で有効数字10桁以上一致するという驚異的な精度を誇る理論です。

量子力学では物理的実体に粒子があって、その状態を記述するのに粒子の位置と運動量を基本的な変数として扱いますが、場の量子論ではを物理的実体に指定します。

」とは、空間全体に広がっていて、時々刻々変化する物理的実体です。場が励起するなどの特殊な状態になることで、粒子のように振る舞ったり、波動のように振る舞ったりします。

何もない空っぽの空間を「真空」と呼んでいますが、何もないわけではなく場が存在していて、局所的に励起したり、低いエネルギーに遷移したりと、ゆらいでいます。場のゆらぎにより、粒子が突然生成したり、消滅したりするように見えるわけです。これが場の量子論における真空の描像です。

(少しそれますが、原子核が質量を獲得する主要因はこの真空に関係しています。クォークがヒッグス機構により質量を獲得し、これによりカイラル対称性と呼ばれる対称性が破れることで、クォーク-グルーオンの相互作用が複雑になり、陽子や中性子は大きな質量を得ます。ヒッグス機構のみが質量を与えるわけではありません。陽子や中性子の質量の98%はこのカイラル対称性の破れによるもので、ヒッグス機構によるものは2%程度です。カイラル対称性の破れは2008年に南部さんがノーベル賞を受賞した理論で詳細は量子色力学(QCD)を参考にしてみてください。)

場の量子論と量子力学の関係について触れておきます。量子力学では粒子は生成や消滅はしない前提となっていますが、場の量子論では粒子の生成や消滅が発生するくらいのエネルギーが高い状態も扱います。すなわち場の量子論の低エネルギー近似が量子力学になります。実は量子力学における「粒子でもあり波動でもある」という相反する説明は低いエネルギー領域にフォーカスを絞って無理やり説明をしたためであって、場の概念を使うことでその真意が明確になります。

ただし、こちらでも少し触れた通り場の量子論は実験で検証された最も進んだ物理学理論の1つではありますが、数学的な厳密性という観点ではまだまだ議論の余地があります。量子力学は数学者ノイマンにより(ヒルベルト空間上の線形作用素論として)厳密に定義されていますが、場の量子論はそこまで到達していません。「場」を数学的には無限自由度をもつ物理的実体ですが、この無限の扱いが緩いのです。
また摂動論とよばれる近似方法が使えない領域はまだまだ未解明の部分が多いです。現に場の量子論の1つに量子色力学というものがありますが、そこで出てくるヤン・ミルズ方程式の一般解の証明に100万ドルの懸賞金がかけられているほどです。(リンク)
場の量子論の数学的側面は現在も数学者や数理物理学者が挑戦している状況です。

5)最後に戯言

ちょっと長くなってきたので、本稿は一旦これぐらいで切ろうかと思います。

記事の中で繰り返し言ってますが、物理学だけでなく化学や生物学、地学、天文学といった自然科学というのは「実験という客観的事実をもって、その正しさを検証できる」ことが大前提にあります。実験による検証という非常に強力な方法論を駆使することで、自然科学は今の形まで発展してきました。極論どんなにすごい理論であっても実験事実と合わないのであれば、それは自然科学としては価値がないのです。是非ともこの記事を読んだ方は自然科学の大前提は理論と実験が相互作用して互いを検証できることを記憶に留めてほしいです。

量子力学や場の量子論は、それまでの理論では説明できなかった実験結果を説明するために、天才的な物理学者たちや数学者たちが徹底的に議論して修正して現在の形になっています。整理されているとはいえ、時代時代の天才たちが生涯かけて構築していった論理体系を、私たち素人がすこし勉強しただけでは理解できないのは当然のことです。
しっかりした深い理解を得るには、専門家の書いた本を熟読して、完全に理解したと思うまで、自分で考えたり、他の文献を読んだり、その道の先人に聞いたりしなければいけません。

これは量子力学に限った話ではなくて、何かを学ぶため際には必ず必要となる事柄かと思っています。

長文なのに、最後まで読んでいただきありがとうございます。
質問等はコメント欄かお問合せにてよろしくおねがいいたします。

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