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サラリーマンが場の量子論を勝手に解説する無謀な記事7

こんにちは、本日はゲージ原理について、ゆるめに解説していきます。

ゲージ原理は現代物理学でも基本的な概念の1つになっています。これを勝手に解説していきます。

ゲージ原理の「ゲージ」とは、大雑把にいうと「ものさし」です。ものさしとは人間が何かしらの物理量を計るために勝手においた指標のことですから、ものさしを変えても自然の性質は変わらないはず、という考え方がゲージ原理です。

このゲージ原理は、現代物理学の2巨頭である
「場の量子論」
「一般相対性理論」
に共通している考え方です。

これらについてみていきます。

本シリーズの最初の方でラグランジアン密度を扱いました。\(\psi\)を場として、\[
\mathscr{L}=\mathscr{L}(\psi, \partial_\mu\psi)
\]という感じで、ラグランジアン密度は、場とその時間/空間微分の関数でした。これまでは\(\mathscr{L}\)の具体的な形は与えておらず、今回あたえていきます。

場の量子論の成り立ちは、特殊相対論と量子力学を整合させることがモチベーションとなって始まりました。こちらについて少し触れていきます。なお、式を簡潔するため自然単位系( プランク定数と光速を\(1\)とおく単位系で、\( \hbar =1,c=1\) )を用います。

1)Dirac方程式

特殊相対論によるとエネルギーの関係式は\[
E^2=m^2+p^2 \Rightarrow E = \sqrt{m^2 + p^2}
\]のようになります。この相対論的エネルギーの式に量子力学で成功した正準量子化と呼ばれる方法
\[
E\rightarrow \hat{E} = i \frac{\partial}{\partial t},\ p \rightarrow \hat{p}=-i\nabla
\]を何も考えずに適用すると、\[
\hat{E}\psi = \sqrt{m^2 + \hat{p}^2}\psi \Rightarrow
-i\frac{\partial \psi}{\partial t}= \sqrt{m^2 – \nabla^2}\psi
\]となり、平方根の中に微分が入るという意味不明な式になってしまいます。
平方根を無理やりテーラー展開して微分をルートの外に出したとしても、今度は無限回微分した\(\psi\)の級数となってしまい、収束するか大分怪しくなってしまいます。

そこで、何かしらの\( \alpha \)や\( \beta \)が存在して\[
E=\alpha p + \beta m
\]が成り立つと仮定します。これを自乗したとき\[
(\alpha p + \beta m)^2 = p^2 + m^2
\]が成り立つような\( \alpha \)や\( \beta \)となります。このような\( \alpha \)や\( \beta \)が存在すれば\[
i\frac{\partial \psi}{\partial t}=( -i\alpha \nabla + \beta m )\psi
\]といった形になります。すこし整理して\[
\left( i\frac{\partial}{\partial t} +i\alpha \nabla – \beta m \right ) \psi = 0 \tag{1}
\]

このような\( \alpha \)や\( \beta \)は「数」では条件をみたせず、行列になります。それに伴い\( \ \psi \ \)もスカラーではなく成分をもつことになります。KKD(気合いと根性と努力)で計算すると、\( \) \[
\alpha^j = \begin{pmatrix}
-\sigma^j & \textbf{0} \\ \textbf{0} & \sigma^j \\
\end{pmatrix} ,\ j= 1,2,3 ,\ \
\beta = \begin{pmatrix}
\textbf{0} & \sigma^0 \\ \sigma^0 & \textbf{0} \\
\end{pmatrix}
\]のような\(4\times 4\)の行列になります。ここで\(\sigma^j\)はパウリ行列というもので、

\[
\sigma^1 = \begin{pmatrix} 0 & 1 \\ 1 & 0 \\ \end{pmatrix},\
\sigma^2 = \begin{pmatrix} 0 & -i \\ i & 0 \\ \end{pmatrix} ,\
\sigma^3 = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & -1 \\ \end{pmatrix}
\]

となる\(2\times 2\)の行列で、\(\sigma^0\)は\(2\times 2\)の単位行列です:

\[
\sigma^0 = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \\ \end{pmatrix} .
\]

\(4\times 4\)の行列を作用させるので、\(\psi\)も4つの成分を持つことになります。

\[
\psi = \begin{pmatrix} \psi_1 \\ \psi_2 \\ \psi_3 \\ \psi_4 \\ \end{pmatrix} .
\]

\( \psi\)ですが、4成分もつので、ベクトルのようなものです。ただ、電子などのフェルミオンの場合ですとベクトルとは少し違う性質ももっており、ベクトルと区別するためスピノルと呼ばれています。

一般的なスピノルの数学的な定義は割愛しますが、スピノルを自乗するとベクトルになるイメージです。\(\psi\)はスピノルそのものというよりはスピノルの成分という言い回しが正しいです。詳細は別の記事で解説していこうかと思っています。

さて、式を整理するため以下のようにおきます。\[
\gamma^0 = \beta,\ \gamma^j = \beta \alpha^j, j=1,2,3
\]これをガンマ行列といいます。\(\mu = 0,1,2,3\)とすると、このガンマ行列\( \gamma^\mu \)と偏微分\[
\partial_{\mu}=\left( \frac{\partial }{\partial t},\nabla\right)
\]を用いて、式\( (1) \)を変形すると

\[
(i\gamma^{\mu}\partial_{\mu}-m) \psi = 0
\]

となります。結構端折ってますが、これがDirac方程式になります。

さてDirac方程式を導出するラグランジアン密度を考えていきます。ここで導出したオイラーラグランジュ方程式

\[
\frac{\delta\mathscr{L}}{\delta \psi}-\partial_\mu\frac{\delta\mathscr{L}}{\delta\partial_\mu\psi}=0
\]を計算したらDirac方程式が出てくるようにラグランジアン密度を決めます。パズル的にこねくり回すと、

\[
\mathscr{L}=\bar{\psi}(i\gamma^\mu\partial_\mu-m)\psi
\]

となります。ここで\(\bar{\psi} = \psi^{\dagger}\gamma^0 \)であり、\( \psi^{\dagger}\)は\(\psi\)のエルミート共役です。

これでラグランジアン密度を出せました。

2)ゲージ変換

さて本題のゲージ変換に入ります。冒頭でも言及した通りゲージというのは「ものさし」でしたから、このものさしを変えてみてラグランジアンがどう振る舞うかをみていきます。

2-1)大局的ゲージ変換

まずは\( \psi \rightarrow \psi^\prime = e^{-ia}\psi\)と変化させてみます。すなわち場全体の位相を一斉に定数\( a \)だけ変えてみます。すると

\[
\mathscr{L}=\bar{\psi}^{\prime}(i\gamma^\mu\partial_\mu-m)\psi^{\prime}
=e^{ia}\bar{\psi}(i\gamma^\mu\partial_\mu-m)e^{-ia}\psi \\
=\bar{\psi}(i\gamma^\mu\partial_\mu-m)\psi
\]となり、ラグランジアンは不変になっていることがわかります。

物理学ではネーターの定理というものがあり、これは「系が連続的な操作に対して対称性を持つ場合には、操作に依存して保存量が存在する」というものです。

そこで、\( a\rightarrow a+\delta a (x)\)といった変分をとってみます。つまり\(\psi \rightarrow e^{-i(a+\delta a(x))}\psi\)として、変分に対して作用を最小にします。計算すると

\[
\partial_{\mu }j^{\mu} = 0 ,\ j^\mu =\bar{\psi}\gamma^{\mu}\psi
\]

といった関係式が得られます。これは確かにあるカレント\( j^\mu\)が保存していることがわかります。

2-2) 局所的ゲージ変換

次に2-1)より強い条件として、局所的にしてみます。すなわち

\[
\psi \rightarrow \psi^\prime=e^{-ia(x)}\psi
\]

とする感じです。この場合偏微分の項を計算してみると\[
\partial_\mu \psi^\prime = -i \big(\partial_\mu a(x)\big) e^{-ia(x)}\psi + e^{-ia(x)}\partial_\mu\psi
\]となり、第1項が邪魔して、ラグランジアン密度が変わってしまいます。

ラグランジアン密度は最小作用の原理の根幹のコンポーネントなので、局所ゲージ変換しても変わって欲しくありません。そこでなんとかしてラグランジアンを不変にする方法を考えます。

偏微分の結果、第1項が出てきてしまうので、これが出ないように偏微分のやり方を少しいじってやれば良さそうに思えます。そこでとりあえず新しい場\( A_\mu(x)\)を導入して

\[
D_\mu \equiv \partial_\mu + iqA_\mu
\]

となるように微分を置き換えてみます。するとこの\( D_\mu\psi^\prime \)を計算すると

\[
D_\mu\psi^\prime = e^{-ia(x)}\Big( \partial_{\mu} +iqA_{\mu}-i\partial_{\mu}a(x) \Big)\psi
\]

となります。さらに上の2項と3項が\[
A_\mu^{\prime}=A_\mu -\frac{1}{q}\partial_{\mu}a
\]となるとすると、

\[
D_\mu\psi^\prime = e^{-ia(x)}\Big( \partial_{\mu} +iqA_{\mu}^{\prime} \Big)\psi = e^{-ia(x)}D_\mu \psi
\]

となり、不変になり、よさげな感じになります。

つまり、局所ゲージ変換に対してラグランジアンが不変になるようにするには

・ラグランジアンの偏微分\(\partial_{\mu}\)をあたらしい微分\(D_\mu =\partial_{\mu}+ iqA_{\mu}\)とする。(この\(D_\mu\)を共変微分といいます。)
・局所ゲージ変換\( \psi \rightarrow \psi^\prime = e^{-ia(x)}\psi\)する際は、同時に\( A_{\mu } \rightarrow A_\mu^{\prime}=A_\mu -(1/q)\partial_{\mu}a\)となるように変換する。( \(A_\mu\)をゲージ場と言います。)

とするとよいことがわかりました。このときラグランジアンは

\[
\mathscr{L} =\bar{\psi}(i\gamma^\mu D_\mu-m)\psi
= \bar{\psi}(i\gamma^\mu \partial_\mu – m – q\gamma^{\mu} A_\mu)\psi \\
=i \bar{\psi}\gamma^\mu \partial_\mu \psi -m\bar{\psi}\psi -j^{\mu}A_{\mu}
\]となります。

最後の項\( j^{\mu}A_{\mu}\)は場\( \psi\)と\(A_\mu\)の相互作用項となります。これは例えば、電子と電磁場の相互作用の項であり、電磁気学ではよく目にする項になります。

つまりラグランジアンの局所ゲージ変換の不変性によって、場の相互作用が自然に決まることを意味しています。これがゲージ原理の考え方です。

今回触れられませんが、一般相対性理論も同じようなゲージ原理が適用できます。場の量子論では局所ゲージ変換に対して作用が不変であることを要請しましたが、一般相対性理論の場合は「座標変換」に対して作用が不変であることを要請します。これにより重力場での粒子の運動方程式(測地線方程式)を導出することができます。

これはよく考えてみると大変なことです。ゲージ不変という数学的な対称性を課すと、自然界における相互作用が勝手に決まってしまうというもので、量子場と重力場という一見無関係な理論の根底に横たわる抽象構造を表しているように思えます。まさに物理学者ウィグナーの「自然科学における不合理なまでの数学の有効性」そのものな感じです。

大分長くなってしまいましたが、本稿はここまでにします。

最後まで読んでくださりありがとうございます。
質問等はコメント欄もしくはお問い合わせにてよろしくおねがいいたします。

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