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一般サラリーマンがテクニカル戦略の取引コストと複数資産を検証してみた話 -コスト・マルチアセット編-

こんにちは。前回のリスク管理編では、ポジションサイジングとストップロスを入れるとリスクは確かに減るものの、リターンも一緒に削れるという、あまり美しくないトレードオフの話をしました。

今回は少し角度を変えて、「そもそも実際に取引するとすればいくら手数料がかかるのか」と「ビットコイン以外の暗号資産でも同じような結果になるのか」を確かめました。結論を先に言うと、取引所の選び方よりも「取引形態」を間違える方がはるかに致命的ですし、ビットコイン以外の銘柄に広げるのはまだ時期尚早です。順番に見ていきます。

① 実際の取引所の手数料体系を精緻化する

これまでの検証ではコストをbp(ベーシスポイント)単位で一律に仮定してきましたが、実際に口座を持っているGMOコイン・coincheck・bitFlyerの3社について、公式情報をもとに手数料体系を調べ直しました。ここで重要なのが、どの取引所も「取引所(板取引)」と「販売所」の2つの形態を持っていて、手数料体系がまったく違うという点です。

取引所取引形態MakerTaker備考
coincheck取引所(板)0%(無料)0%(無料)BTC/ETH/XRP等主要銘柄。板が薄い時間帯はスリッページに注意
GMOコイン取引所(板)-0.01%(受取)0.05%現物のみメイカー・テイカー制
bitFlyerLightning(板)マイナス手数料なし0.01%〜0.15%(変動)本ツール規模の出来高では最低ティア寄りの0.15%想定
GMOコイン販売所スプレッド約5%同左自動売買には非推奨
coincheck販売所スプレッド約5〜6%同左往復で数万円/100万円規模のコスト

「取引所(板)」で成行(Taker)相当の執行を前提にすれば、いずれのコスト水準でも戦略の優位性を損なわないことが分かりました(本ツールはシグナル発生日の翌日に約定させる設計で指値の約定を保証できないため、Taker執行が前提)。BTC-USD、固定パラメータ12/26/9での比較がこちらです。

シナリオ手数料MACD CAGRMACD SharpeMACD MaxDD
コストなし65.75%1.34-48.71%
coincheck取引所(板)、手数料無料0bp63.70%1.32-50.13%
GMOコイン取引所(板)、Taker想定5bp61.72%1.29-51.40%
bitFlyer Lightning、Taker最低ティア想定15bp57.85%1.23-53.92%
(参考)販売所のスプレッドをそのまま乗せた場合275bp(往復スプレッド5.5%の片道相当)-15.66%-0.13-98.27%

取引所(板)形式であれば、保有している3社いずれでもBuy & Hold(CAGR 51.56%)に対するMACDの優位性は崩れません。コストなしとの差は最大でもCAGRで8pt弱に収まります。一方で、販売所形式を使うと(取引所を問わず)戦略は完全に崩壊します。CAGRは-15.66%とマイナスに転落し、MaxDDも-98.27%とほぼ全損に近い数字です。正直、最初この差を見た時は自分の目を疑いました。「どの取引所か」よりも「取引所内のどの取引形態(板か販売所か)を使うか」の方が、結果を左右するということです。

販売所の方がアプリの使い勝手が良く、自動化もしやすそうなのでつい手が伸びそうになりますが、この結果を見る限り選択肢にはなりえません。幸い、3社とも取引所(板)形式にはAPIが用意されているので、自動売買を実装する際は必ず板取引のAPIを使うことが大前提になります。なお、コストだけを見ればcoincheckが最有利ですが、coincheckは板の厚み(流動性)がGMOコインやbitFlyerほどではない可能性があり、実際のスリッページはここでの近似より大きくなるリスクが残ります。

② ビットコイン以外でも同じ結論になるのか ― 複数暗号資産での頑健性検証

ここまでの検証はBTC-USD単体を中心に見てきましたが、約12年・1銘柄のみのサンプルでは、たまたまこの期間・この銘柄だけで頑張ってしまった(過学習してしまった)可能性を拭えません。そこでETH-USD(2017-11〜、約9年)とSOL-USD(2020-04〜、約6年)を加え、同じコスト前提(GMOコイン取引所(板)相当)で検証しました。

固定パラメータ12/26/9

銘柄期間Buy&Hold CAGRMACD CAGRBuy&Hold SharpeMACD SharpeBuy&Hold MaxDDMACD MaxDD
BTC-USD2014-09〜2026-0851.55%61.72%0.961.29-83.40%-51.40%
ETH-USD2017-11〜2026-0822.63%30.59%0.670.75-93.96%-71.97%
SOL-USD2020-04〜2026-0899.75%86.45%1.171.15-96.27%-84.49%

BTC-USD・ETH-USDはCAGR・Sharpe・MaxDDのすべてでMACDがBuy & Holdを上回り、これまでの結論がETH-USDでも再現されました。一方でSOL-USDはBuy & HoldがMACDをCAGRで上回ってしまいます(Sharpeはほぼ同水準)。SOL-USDは2020〜2021年に極端な初動ラリーがあり、その全区間を持ち続けたBuy & Holdが圧倒的に有利になっています(ラリー中にMACDが何度か押し目で手仕舞っている影響)。

Walk-forward(robust選定、Out-of-sample)

銘柄設定OOS期間Buy&Hold CAGRMACD OOS CAGRBuy&Hold SharpeMACD OOS Sharpe
BTC-USD学習3年/検証1年2017-09〜2026-0838.36%46.45%0.821.07
ETH-USD学習3年/検証1年2020-11〜2026-0828.94%53.28%0.721.04
SOL-USD学習2年/検証1年2022-04〜2026-08-8.52%18.98%0.370.60

ここで面白いことが起きます。Walk-forward(robust)のOut-of-sample比較では3銘柄ともMACDがBuy & Holdを上回りました。固定パラメータでは劣後したはずのSOL-USDも、ここでは逆転しています。これは矛盾ではなく、比較している期間が違うためです。Walk-forwardは学習に最初の2年を使うため、OOS期間(2022-04以降)はSOL-USDの極端な初動ラリーを含まない、より「その後の地合い」に近い区間になっています。裏を返せば、SOL-USDのBuy & Hold圧倒は「たまたま極端な初動を丸ごと取れた」ことに強く依存しており、その運が再現しない期間だけを見るとMACDの方が優位、という解釈になります。

この結果をどう扱うかですが、BTC-USD・ETH-USDは固定パラメータ・Walk-forwardのいずれでも一貫してMACDがBuy & Holdを上回り、「長く続く片方向トレンドが多い」という構造的特徴を共有していると考えられます。一方でSOL-USDは評価方法によって結果が逆転し、他の2銘柄ほど一貫していません。データ期間が約6年と短く、初動の極端なラリーの影響を強く受けるため、現時点では判断材料として弱いと評価しています。したがって、戦略の対象を無条件にアルトコイン全般へ広げるのは時期尚早と判断し、現在はBTC-USD・ETH-USDに絞って検証を続けています。

検証で気をつけていること

今回の検証で改めて意識したのはこの3点です。

  • 取引形態を間違えない:どの取引所を選ぶかよりも、「板取引」と「販売所」の選択の方が結果を左右する。自動化では必ず板取引のAPIを使う
  • サンプルの少ない銘柄の結論に飛びつかない:SOL-USDのようにデータ期間が短く、特定のイベント(初動ラリー)の影響が大きい銘柄は、良くも悪くもたった1つの検証結果だけを鵜呑みにしない
  • 期間の切り取り方で結果が逆転しうる:②で見た通り、固定パラメータでは劣後したSOL-USDがWalk-forwardでは逆転する。どの期間を切り取った結果なのかを常に意識する

今回はコスト面では比較的安心できる結果(板取引であれば優位性は崩れない)でしたが、その一方で、少し選ぶデータ期間や銘柄を変えるだけで簡単に結論がひっくり返ることを改めて確認できました。

次回予告

次回は「運用自動化編」です。ここまではすべて過去データを使ったバックテスト検証でしたが、実際に日々シグナルを記録し続けるペーパートレードの仕組みと、それをAzure Functionsで毎日自動実行するようにした過程についてまとめる予定です。お楽しみに。

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