こんにちは、本日はトポロジカル量子計算のエラー発生について、ゆるめに解説していきます。
※今回もこちらの論文を参考にしてます。
縮退した基底状態がトポロジカルな性質によって保護されているため、トポロジカル量子計算は理想的な状況ではエラーが発生しないことを前回触れましたが、現実には理想的な状況を完全に再現することはできないので、エラーが発生することになります。ここでは、どんな原因のエラーが発生するかについて、簡単にみていきたいと思います。
1)意図せず生成されたエニオンの影響
こちらによると現実的なトポロジカル量子計算をするのに必要なエニオンの数としては、フィボナッチエニオンで\( 10^3\)個程度、イジングエニオンになると\(10^9\)個程度必要になるようです。このくらいの個数のエニオンを完全に制御して生成することは難しく、中には意図せず生成されたエニオンが存在することもありえます。
この意図せず生成されたエニオンがbraiding(組紐)に巻き込まれることで、エラーが発生してしまうイメージです。
もし意図せず生成されたエニオンであってもそれら同士でペアを組んでいれば、量子計算には影響が出ません。ペアを組んでいない自由エニオンがトポロジカル量子計算のエラー発生源になります。
2)エニオン間の有限な距離
トポロジカル量子計算時の理想的な状態の1つにエニオンたちが無限に遠いことがありますが、現実世界では無限の距離というもの用意するのは不可能です。しかし、エニオン間の相互作用は遠くなるほど指数関数的に減少していくので、基底状態と励起状態の間のエネルギーギャップ\(\Delta\)に対して、その逆距離\( \xi \sim \Delta^{-1}\)が系のスケール長となります。
ゆえに2つのエニオンの距離が\(L\)だけ離れていたとすると、
\[
\Delta E \sim \exp \left(- \frac{L}{\xi}\right)
\]
分だけ縮退が解けて、エネルギー準位差が生じることになります。
このためエラー補正をしない限り時間の経過とともに縮退が解かれ、さらに時間発展させるには、縮退が効いてる程度には早いものの、エネルギーギャップ\(\Delta\)は超えない程度には遅い、というような、いい塩梅で動かさなければならず、これはちょっとしたエラーはほぼ発生すると考えた方が現実的になります。
またエニオンが1列に整列している場合、エニオン間の相互作用によってトポロジカル相転移を引き起こす場合があります。量子計算の観点では、トポロジカル相転移が発生することは致命的な失敗になってしまうので、絶対に発生しないように制御しなければなりません。相転移の詳細条件については現在も盛んに研究されているようです。
3)有限温度
現実の系で絶対零度にするのは不可能なので、現実的には極低温とはいえ有限温度で量子計算をしなければなりません。
原理的には温度がエネルギーギャップ\(\Delta\)より低いのであれば、エラーの頻度\(\sim \exp(-\Delta/k_BT)\)は抑制されるはずですが、最近の研究では、エネルギーギャップ\(\Delta\)よりもずっと低い温度でも問題が発生する可能性があり(詳細はこちらの参考文献120,121,122)、なかなか前途多難な状況ではあります。
さらにギャップ\(\Delta\)自体も小さくなる傾向があり、そのため極低温でも非常に短い時間しか許容されない、などの課題もあります。
4)表面効果
現実世界ではエニオン系を操作するために外から何かしらで制御する必要がありますが、これはエニオン系に閉じておらず、いわゆる開放系とみなさないといけなくなります。
エニオンの孤立系は安定していることは前述の通りですが、エニオンの開放系は外界の粒子交換に関して不安定となってしまい、致命的な問題になります。
これは非エルミート表皮効果とよばれるもので、ハミルトニアンが非エルミートであることで境界条件に強く依存するようになり、状態が境界に局在するようになる現象を指します。
非エルミート表皮効果についてはこちらに詳しい解説があるので、気になる方は参照してみてください。
5)まとめ
トポロジカル量子計算で発生しうるエラーや問題について、記述してみました。
トポロジカル量子計算は物理学者や数学者を中心に現在もさかんに研究されているので、すぐに上記内容が陳腐化してしまうかもしれません。最新情報は論文などを参照したり、シンポジウム等でその道のプロに聞いていただければと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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