こんちは、本日は前回に引き続き確率過程について勝手に概説していきます。
いままでは確率空間 \((\Omega,\mathcal{F},P)\) 上の正規分布に従う確率変数全体からウィーナー過程を定義しました。
これとは別に見本経路となる連続関数全体の集合の上に確率測度を構成させる方法もあり、その方法についてこれから見ていきますが、かなり関数解析学的な議論となります。
ちなみに量子論でよく使われる経路積分を厳密に定式化する場合も同じような手順を踏んだりします。
準備として以下の2つの定理を使います。
THM.11 ハーン・バナッハの拡張定理
ベクトル空間 \(\mathcal{X}\) の部分空間を \(\mathcal{A}\) とする。\(\mathcal{X}\) 上の劣線形汎関数を \(\psi\) とし、\(\mathcal{A}\) 上の線型汎関数を \(\varphi\) とする。いま \(\forall x \in \mathcal{A}\) に対して、\[
\varphi(x) \leq \psi (x)
\]が成立するとき、\(\forall x \in \mathcal{X}\) に対して、\[
\phi(x) \leq \psi(x)
\]を満たすような、\(\varphi\) の拡張 \(\phi\) が存在する。
劣線形汎関数とは、汎関数 \(\psi :\mathcal{X}\ni x \rightarrow \psi(x) \in \mathbb{R}\) が、\(\forall x,y \in \mathcal{X}\) に対して、\[ \psi(x+y)\leq \psi(x) + \psi(y) \\ \psi(cx) = c\psi(x),\ \forall c \geq 0 \]を満たす場合をさします(斉次性は非負の \(c\) についてのみ要求される点に注意してください。すべての実数 \(c\) について要求すると、劣加法性とあわせて \(\psi\) は結局線形になってしまいます)。
証明.
\(y \in \mathcal{X}\setminus \mathcal{A}\) とし、\(\mathcal{A}\) と \(\{y\}\) の線型結合全体がなすベクトル空間を \(\mathcal{B}\) とする。\(\forall x \in \mathcal{B}\) は、\(c\in \mathbb{R},z\in \mathcal{A}\) として\[
x = cy +z
\]とかける。もし、\(\mathcal{X}\) 上の線型汎函数 \(\phi\) が存在するならば、\[
\phi(x)=\phi(cy+z) = c\phi(y)+\phi(z) = c\phi(y) + \varphi(z)
\]を満たすこととなる。\(\lambda = \phi(y)\) とおくと、\(\forall z \in \mathcal{A},\forall c \in \mathbb{R}\) に対して、\[
c\lambda + \varphi(z) \leq \psi(cy+z)
\]を満たすように \(\lambda\) を選べばよい。このような \(\lambda\) が存在するかであるが、それは \(z_1,z_2 \in \mathcal{A}\) に対して、不等式\[
\varphi(z_2)-\varphi(z_1) = \varphi(z_2-z_1) \leq \psi(z_2-z_1)=\psi\left(\left(z_2+y\right)-\left(z_1+y\right)\right)
\\ \leq \psi(z_2+y)+\psi(-z_1-y)
\]が成り立つことから、\[
-\varphi(z_1)-\psi(-z_1-y) \leq -\varphi(z_2) + \psi(z_2 + y)
\]となることから言える。すなわち\[
\sup_{z_1 \in\mathcal{A}}\left\{-\varphi(z_1)-\psi(-z_1-y) \right\} \leq \phi(y)
\leq \inf_{z_2\in\mathcal{A}}\left\{-\varphi(z_2) + \psi(z_2 + y)\right\}
\]をみたす、\(\lambda = \phi(y)\) が存在することになる。ゆえに、\[
\phi(cy+z) \equiv c\phi(y)+\varphi(z)
\]として定義される線型汎関数 \(\phi\) はベクトル空間 \(\mathcal{B}\) 上で題意の不等式をみたすことがわかる。
これで \(\mathcal{A}\) から \(\mathcal{B}\) へ拡張することができたが、同じ手順を帰納的に繰り返すことによりベクトル空間 \(\mathcal{X}\) まで拡張することができる。∎
THM.12 リース・マルコフ・角谷の定理
区間 \([a,b]\) で定義された有界な連続関数全体を \(C[a,b]\) とし、ノルムを\[
\left \| f \right \| \equiv \sup_{x\in[a,b]} \left\{\left | f(x) \right |\right\}
\]で定義したノルム空間とする。このとき \(C[a,b]\) 上の有界線型汎関数 \(\varphi : C[a,b] \rightarrow \mathbb{R}\) は、\(\mu\) を区間 \([a,b]\) 上の測度とすると、\(\forall f \in C[a,b]\) に対して、\[
\varphi(f) = \int_a^b f(x)\mu(dx)
\]で表すことができる。
ここで測度 \(\mu\) はルベーグ・スティルチェス測度となります。
証明.
区間 \([a,b]\) で定義される有界関数全体を \(B[a,b]\) とする。\(C[a,b]\) は連続関数全体の集合であるから、\(C[a,b]\subset B[a,b]\) となる。ここで線型汎関数 \(\varphi\) は、ハーン・バナッハの定理から、\(B[a,b]\) 上の線型汎関数 \(\phi\) に拡張される。
さて、\(c\in [a,b]\) として、関数 \(g_c(x)\in B[a,b]\) を \(c=a\) の場合は恒等的に \(g_c(x)=0\) として、\(c\neq a\) の場合は\[
g_c(x) = \begin{cases} 1 & (x\leq c) \\ 0 & (x \gt c) \end{cases}
\]で定義する。また関数 \(G\) を以下で定義する。\[
G:[a,b]\ni c \rightarrow G(c) \equiv \phi(g_c)\in \mathbb{R}
\]ここで区間 \([a,b]\) の分割を\[
a=x_0 \lt x_1 \lt x_2 \lt \cdots \lt x_n =b
\]とし、\[
s_i = \operatorname{sgn}\left\{G(x_i)-G(x_{i-1})\right\}
\]とすれば、\[
\sum_{i=1}^n \left|G(x_i)-G(x_{i-1})\right|=\sum_{i=1}^n s_i\left\{G(x_i)-G(x_{i-1})\right\}=\sum_{i=1}^n s_i\left\{\phi(g_{x_i})-\phi(g_{x_{i-1}})\right\}
\\=\sum_{i=1}^n s_i\phi\left(g_{x_i} -g_{x_{i-1}}\right)=\phi\left( \sum_{i=1}^n s_i\left(g_{x_i}-g_{x_{i-1}} \right) \right)
\\ \leq \left \| \phi \right \| \left \| \sum_{i=1}^n s_i\left(g_{x_i}-g_{x_{i-1}} \right) \right \|
\\= \left \| \phi \right \|
\]となる。ここで \(\left \| \sum_{i=1}^n s_i\left(g_{x_i}-g_{x_{i-1}} \right) \right \| =1\) を用いた。
この結果は \(G\) は有界変動であることを意味しているが、\(G\) に関するルベーグ・スティルチェス測度 \(\mu_G\) が存在することがわかる。
\(f\in C[a,b]\) に収束する関数列 \(f_1,f_2,\ldots \in B[a,b]\) とルベーグ・スティルチェス測度 \(\mu_G\) を使えば、\[
\varphi(f)= \phi(f) = \int_a^b f(x)\mu_G(dx)
\]が得られる。∎
なお今回は連続関数全体の空間 \(C[a,b]\) を対象としましたが、リース・マルコフ・角谷の定理は一般にはコンパクトなハウスドルフ空間 \(\mathcal{X}\) 上の連続関数がつくるノルム空間 \(\mathcal{N}(\mathcal{X})\) に関しても成立します。ただしその場合いろいろ準備が必要なので詳細については割愛します。関数解析学の書籍を参考にしてもらえればと思います。
ちなみにコンパクトとは位相空間の任意の開被覆に対して、有限個の部分被覆を持つ場合のことをいい、ハウスドルフの分離公理を満たす位相空間をハウスドルフ空間といいます。
ちょっと鼻血が出てきそうになってきましたが、ようやくウィーナー測度を構成する準備が整いました。
さて、\(\mathbb{R}^d\) に無限遠点を1つ付け加えた1点コンパクト化 \(\dot{\mathbb{R}}^d = \mathbb{R}^d \cup \{\infty\}\) とすると、\(\dot{\mathbb{R}}^d\) はコンパクトなハウスドルフ空間となります(\(d=1\) の場合は \([-\infty,\infty]\) のように両側に無限遠 \(\pm\infty\) を付け加える2点コンパクト化もよく使われますが、一般の \(d\) ではこの1点コンパクト化を使うのが標準的です)。さらに \(t\in [0,\infty)\) を添字集合とする直積、\[
\Omega \equiv \prod_{t\in[0,\infty)}^{} \dot{\mathbb{R}}^d
\]もコンパクトなハウスドルフ空間となります(チコノフの定理)。
このとき \(\omega \in \Omega\) は\[
\omega : [0,\infty) \ni t \rightarrow \omega(t) \in \dot{\mathbb{R}}^d
\]なる写像を表します。すなわち、\(\dot{\mathbb{R}}^d\) 上の経路と見ることができます。この意味で \(\omega\) を経路といい、\(\Omega\) を経路空間と呼びます。
経路空間 \(\Omega\) 上の連続関数全体を \(\mathcal{C}(\Omega)\) とします。このとき、時刻の分割 \(0\lt t_1\lt t_2\lt \cdots \lt t_n\lt \infty\) を1つ固定し、連続関数\[
F:(\dot{\mathbb{R}}^d)^n \ni (\omega(t_1),\omega(t_2),\ldots,\omega(t_n)) \rightarrow F(\omega(t_1),\omega(t_2),\ldots,\omega(t_n)) \in \mathbb{R}
\]をとれば、\(f(\omega)\equiv F(\omega(t_1),\omega(t_2),\ldots,\omega(t_n))\) も \(\Omega\) 上の連続関数となります(このような \(f\) を円柱関数とよびます)。この円柱関数全体を \(\mathcal{C}_0(\Omega)\) で表します。\(\mathcal{C}_0(\Omega)\) は \(\mathcal{C}(\Omega)\) の部分集合となります。
なお、\(\mathcal{C}_0(\Omega)\) と \(\mathcal{C}(\Omega)\) はノルム\[
\left \| f \right \| = \sup_{\omega\in\Omega}\left\{\left | f(\omega) \right |\right\}
\]に関するノルム空間となります。
ここでノルム空間 \(\mathcal{C}_0(\Omega)\) の有界線型作用素 \(\varphi\) を、出発点 \(x\in\mathbb{R}^d\)(\(\omega(0)=x\) に対応する固定点)を1つ定めたうえで、以下で定義します。\[ \varphi(f)= \int_{\mathbb{R}^d} \int_{\mathbb{R}^d} \cdots \int_{\mathbb{R}^d} p^{t_1}(x_1-x)p^{t_2-t_1}(x_2-x_1) \cdots p^{t_n-t_{n-1}}(x_n-x_{n-1}) \\ \times F(x_1,x_2,\ldots,x_n)\,d^dx_1d^dx_2\cdots d^dx_n \]ここで \(p^t(x)\) は\[ p^t:\mathbb{R}^d \ni x \rightarrow p^t(x) \equiv \left( \frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2t}}\right )^d \exp\left\{-\frac{\left | x \right |^2}{2\sigma^2t}\right\} \in \mathbb{R} \]です。するとハーン・バナッハの拡張定理から、\(\varphi(f)\) は、\(\mathcal{C}(\Omega)\) 上の線型汎関数 \(\phi(f)\) に拡張することができます。さらにこの \(\phi(f)\) はリース・マルコフ・角谷の定理より、\(\Omega\) のボレル集合族上の測度 \(\mu\) が存在して、\[ \phi(f) = \int_{\Omega}f(\omega)\mu(d\omega) \]と表現できます。この測度は \(\mu(\Omega)=1\) であることから確率測度となり、これがウィーナー測度となるわけです。
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